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社会的学習のアルゴリズムが集団意思決定の効率性と柔軟性を向上させる新たな理論

社会学習のアルゴリズムが、急速に変化する情報環境下での集団意思決定の効率性と柔軟性を両立させうる新理論が明らかにしました。

概要

論文名:How social learning enhances-or undermines-efficiency and flexibility in collective decision-making under uncertainty
著者名:Hidezo Suganuma, Kentaro Katahira, Hisashi Ohtsuki, and Tatsuya Kameda* (*責任著者)
出版誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2516827122

新たな理論の探究と発見

社会学習とは、他者の行動や選択から情報を得て学習するプロセスのことで、そのメカニズムや効果については既に多数の研究が行われてきました。しかし、情報環境が急激に変化する現代において、人々が社会学習を通じて集団意思決定の効率性と柔軟性、つまり良い選択肢への素早い集中と選択肢の変化への対応力をどのように両立させうるのかについての理論はまだ明らかにされていませんでした。本研究では、その解明に挑んだ結果、一つの新たな理論が明らかにされました。

社会学習のアルゴリズムと集団意思決定

社会学習のメカニズムは大きく2つに分けることができ、一つは価値形成(VS)型、もう一つは決定バイアス(DB)型です。VS型の社会学習では、多くの人が選択した選択肢は高い価値を持つと評価され、一方DB型の社会学習では自分の経験に基づいた評価が重視されます。これら二つのアルゴリズムが集団内で組み合わさることで、効率性を保ちつつ選択肢の時間的変化に対する柔軟性も維持するような集団意思決定が実現できることが本研究で示されました。

2つのアルゴリズムの有用性

安定した環境ではVS型の社会学習を行う人々からなる集団が優れた選択に迅速に収束できる一方で、逆に急速な変動が起きる環境ではDB型の社会学習を行う人々からなる集団が柔軟に対応する能力を持つことが分かりました。そして、不確定性の高い現代社会においては、VS型とDB型の両方のアルゴリズムを採用した多様性のある集団が最も高いパフォーマンスを達成できることが明らかにされました。

意味合いと影響

本研究の結果は、個々の多様性が集団全体の意思決定に与える影響やその重要性を理論的に示したものであり、現代社会における集団適応の理解に大いに貢献します。また、これらの知見は、人間とAIが共存する情報空間においてより良い集合的意思決定をデザインするための有用な知識を提供します。

研究者と助成情報

本研究は以下の研究者により行われました。
東京大学 大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻・菅沼秀蔵 大学院生
産業技術総合研究所 人間情報インタラクション研究部門・片平健太郎 研究グループ長
総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター・大槻久 教授
明治学院大学 情報科学融合領域センター・亀田達也 センター長(兼:明治学院大学情報数理学部 教授)
なお、本研究は「JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2108)」、「科研費基盤研究(A)(課題番号:JP23H00074)」、「科研費基盤研究(C)(課題番号:JP24K15121)」の助成を受けて実施されました。
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