パソコンの進化・普及は人々の生活を便利にしただけでなく、様々な分野の常識をも一変させた。例えば出版業界ではページレイアウトソフト『PageMaker』の登場でDTP(デスクトップ・パブリッシング)が瞬く間に一般的になり、多くの人の手がかかわっていたそれまでの工程が画面上で完結することで、印刷までのコスト削減、スケジュール短縮が可能となった。今回紹介する『ミュージくん』も同様に、パソコンを介して使用することで音楽制作ができるDTM(デスクトップ・ミュージック)の先駆けなのだが、その功績は前述のPageMakerと比べ、あまりにも大きい。
1988年に発売された『ミュージくん』は、モジュール音源などのハードウェアと音楽制作用ソフトウェアをセットにした初のバンドリング商品。上の写真を見るとわかるが、パッケージには「DESK TOP MUSIC SYSTEM」と書かれている。実は、この『ミュージくん』こそがDTMというキーワードを使用した世界初の製品なのだ。これらをパソコンにセットアップ(写真下)することで音楽制作が可能となるわけだが、この「パソコンで作曲」という発想が、のちの音楽シーンを大きく変えることになる。
パソコンにセットアップした『ミュージくん』。
DTPの普及でパソコン上で本が作れるようになったとしても、それはあくまでも出版業界が変革されただけの話。ところがDTMは音楽業界のみならず、音楽好きな一般の人にも大きく普及した。たとえ楽器が弾けなくても、たとえ譜面(の読み書き)に精通していなくても、パソコンと『ミュージくん』さえあれば、誰でも曲が作れると人気を呼んだのだ。その後『ミュージくん』は『ミュージ郎』へと進化し、同時に「DTM」は一般的に認知されることになった。そして今や音楽制作ソフトは、スマホアプリとして提供される時代に。DTM製品を数多く生み出してきたローランドから、スマホやタブレットを使ってどこでも気軽に音楽制作を楽しめるスマホアプリ『Zenbeats』が発表された。
そんな中、パソコンでの音楽制作を広く普及させた功績が認められ、『ミュージくん』が国立科学博物館2020年度「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に登録された。登録証・記念盾授与式は、2020年9月15日(火)に国立科学博物館・日本館での開催が予定されている。
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