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東芝ライフスタイルが渋谷に新拠点「Tokyo Design Center」を開所 社外機関とのセッションを通じてデザイン発想のさらなる拡張を狙う

東芝ライフスタイル株式会社は2025年8月28日(木)、プロダクトデザインの創出と情報発信のための共創拠点「Tokyo Design Center(以下、TDC)」を東京・渋谷のShibuya Sakura Stageに開所し、記念イベントを開催した。

同社はブランドステートメント「タイセツを、カタチに。」のもと、人々の暮らしに寄り添う家電製品を長年にわたり製造してきた。今回、多様な価値観や感性が交差する創造的な街・渋谷に新拠点を開設した背景には、この街でしか得られない気づきや、様々な実験・検証を通じて、ブランドとしての進化と拡張を目指す狙いがある。

TDCはTOSHIBAブランドが培ってきたJAPANプレミアムを強化するための中核的拠点であり、デザインを起点としたブランド価値の発信を担う共創と革新の場と位置づけられている。『Design for Center of Life』をコンセプトに、居住空間を再現した「CO-CREATION SPACE」、オフィス機能としての「WORKING SPACE」、自由な発想でプロダクトを生み出す「LAB」などが併設されている。

今回のTDC開所により、従来のプロダクトデザインの枠を超え、家電を起点とした一人ひとりのライフスタイルまで広くデザインするとともに、外部のパートナーや教育機関とのセッションを通じて、東芝ライフスタイルならではのデザイン発想をさらに拡張していくことが期待される。

白戸社長が語るTDCの役割と「タイセツを、カタチに。」の未来


オープニングセレモニーの冒頭、代表取締役 社長執行役員の白戸健嗣氏が登壇。多様性が交わる渋谷の地にTDCを開設できた喜びを語るとともに、同社の経営戦略とTDCが果たすべき役割についてプレゼンテーションを行った。

白戸氏は、同社のブランドタグライン「タイセツを、カタチに。」に込めた想いを強調。「私達はプロダクト開発において、派手さや過剰なデザイン性を追い求めるよりも、生活される皆様が本当に必要とする価値が何かを見極め、誠実にそれをお届けしていくことを大切にしている」と述べた。

また、昨今の家族や暮らしのあり方の多様化に伴い、家電のデザインも変化が必要だと指摘。「本来、主婦層の家事負担を軽減するのが大きな役割であったが、それに留まることなく、幅広い多様な生活層を想定した設計が求められている」とし、多様な価値観から生まれるニーズをいかにプロダクトに落とし込むかが課題であると語った。

その上で、「この渋谷という多様性のある街でしか得られない様々な気づきを、TDCという場所でプロダクトデザインに反映していきたい。TDCはプロダクトデザインだけでなく、ライフスタイルそのものを創造する拠点となる」と宣言。目指すゴールは市場の大きさではなく、「暮らしにもっとも信頼される家電ブランド」になることだとし、「本質を見つめ直し、時代の変化と生活者の暮らしに寄り添い続けることこそが、私たちが進む道だ」と力強く締めくくった。

新デザインフィロソフィー「Design for Center of Life」を発表


続いて、Tokyo Design Center ディレクターの宮澤卓行氏が登壇し、TDC開設を機に新たに制定したデザインフィロソフィーと、渋谷ならではのロケーションを活かした具体的な活動について説明した。

宮澤氏は、新たなデザインフィロソフィーとして「Design for Center of Life」を発表。「ブランドタグラインである『タイセツを、カタチに。』を全てのデザインの起点とし、一人ひとりの暮らしの真ん中にある大切なことやものを丁寧に見つめてデザインしていく、という想いをこの言葉に込めた」と解説した。

さらに、TDCでは「クローズドからオープンへ」を掲げ、協創を起点とした開発を推進していくと表明。渋谷という「創造の交差点」で、共創を基軸としたインプットとアウトプットの活動を展開していく方針を示した。

具体的な活動として、インプット活動では渋谷を拠点とするクリエイターとコラボレーションする「カルチャー・ミートアップ・セッション」や、学生・スタートアップと共に未来の暮らしを描く「未来生活協創ワークショップ」を計画。アウトプット活動では、渋谷の街に未来のリビング空間を出現させる「SHIBUYA POP UP LIVING」や、家電をアート作品として表現する「家電アートインスタレーション」などを通じて、ブランド価値を発信していくとした。

最後に宮澤氏は、「多様な価値観が交差し、絶えず新たなアイデアが生まれる渋谷で、共に想いをデザインしていきたい」と、今後の活動への期待を述べた。

ディレクター宮澤氏×デザイナー鈴木氏「これからの暮らしの“真ん中”をつくるデザインとは?」


セレモニーでは、TDCディレクターの宮澤氏と、ゲストとして招かれたプロダクトデザイナーの鈴木元氏によるトークセッションが行われ、「これからの暮らしの“真ん中”をつくるデザインとは?」をテーマにプロの視点から活発な議論が交わされた。

このテーマに対し、鈴木氏は「長く愛されているものは“名脇役”のものが多い。脇役があるからこそ生活が彩られる」と語った。また、多様な使われ方を受け入れるためには「勇気を持ってシンプルにすること」が重要だと指摘。自身のデザインプロセスにおいても、仕事場で作ったプロトタイプを生活空間である自宅に持ち帰り、一生活者の視点で見直すことで「やり過ぎ」を戒めているエピソードを披露した。

宮澤氏はこれに共感を示し、「TDCのコ・クリエーションスペースは、まさにデザイナー自身が居住空間に身を置いてデザインに取り組むことを意図した空間だ」と説明。生活の中での気づきから生まれた製品開発の重要性を強調した。

また、インハウスデザイン組織への期待について、鈴木氏は「物の周辺にある素材や循環といった要素まで含めてデザインする必要がある現代において、全体を串刺しにするようにオーガナイズできるインハウスデザイナーの役割はますます重要になる」と述べた。宮澤氏はこれを受け、「デザインやものづくりの最終的な責任はインハウスのデザイナーが持つべき。TDCでその部分をしっかり担っていきたい」と決意を新たにした。

共創と実験を促進する3つの空間

TDCは、コンセプトである「Design for Center of Life」を具現化するため、3つの特徴的な空間で構成されている。


CO-CREATION SPACE ― 「タイセツを、カタチに。」するための共創の起点となる場所
ダーク系とライト系の2つの異なるインテリアテイストを持つ「居住空間」を再現。デザイナーは実際にこの空間で“暮らし”ながら、ライフスタイルの中における家電の色味やデザイン、UIUXなどを検証する。トレンドの変化に対応できるよう、内装の多くはアップデート可能な造作什器で構成されており、今後はクリエイターや学生など外部パートナーとのコラボレーションを行う“オープン”な場として活用されることが想定されている。


WORKING SPACE ― 「タイセツを、カタチに。」するために、アイデアを創造する場所
共創から得られた気づきやインサイトを基に、デザイナーたちが生活者視点のデザインを形にしていくための執務空間。湾曲した大型モニターなど、業務内容に応じた最適なツールが用意されている。集中とリラックスのバランスを考慮したレイアウト設計により、創造的な思考とコミュニケーションが自然と生まれるよう工夫されている。


LAB ― 「タイセツを、カタチに。」を実現するため、暮らしの真ん中を未来につなぐ実験をする場所
最新の技術やトレンドをキャッチアップし、すぐに試作・検証ができる実験室。3DプリンターやUVプリンターなどの開発ツールを備え、デザイナーが実際に手に触れて検証することで、より暮らしに近いデザインを追求する。これまで外部に発注することが多かったモックアップ制作の内製化も進め、開発のスピードと質を高めていく。

渋谷に誕生した「Tokyo Design Center」は、東芝ライフスタイルのデザイン戦略における新たな挑戦の象徴である。ブランドタグライン「タイセツを、カタチに。」と、新フィロソフィー「Design for Center of Life」を指針に、生活者の本質的な価値を追求していく姿勢を明確に示した。

この拠点の最大の鍵は、渋谷という立地を活かした「共創」にある。社内のデザイナーだけでなく、外部のクリエイターやパートナー、さらには未来を担う学生といった多様な人々とのセッションを通じて、これまでの常識にとらわれない新しい価値やライフスタイルがどのように生み出されていくのか。今後の活動に大きな注目が集まる。

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