「肥満」と「肥満症」。このふたつの言葉の違いを明確に説明できるだろうか。
単に太っている状態を指す「肥満」に対し、「肥満症」は健康障害を合併している、あるいはそのリスクが高い状態であり、医学的な治療が必要な「病気」である。しかし、世間では依然として「太っているのは自己管理ができていないから」「本人の努力不足」といった誤解や偏見(スティグマ)が根強く、それが当事者を追い込み、適切な治療へのアクセスを妨げる要因ともなっている。
こうした現状を変え、肥満症に対する正しい理解の輪を広げるべく、日本イーライリリー株式会社と田辺ファーマ株式会社は共同で「その肥満、肥満症かも!」プロジェクトを発足。3月4日の「世界肥満デー」を翌日に控えた2026年3月3日(火)、東京・時事通信ホールにてプロジェクトの発足記者会見が開催された。
誤解や偏見のない社会へ。「自己責任」論からの脱却を目指す
会見の冒頭、主催者を代表して日本イーライリリー株式会社 執行役員 コーポレート・アフェアーズ本部 本部長の野村律心氏が登壇した。
野村氏は、3月4日の「世界肥満デー」が、肥満に対する正しい理解を深め行動につなげるための世界的なキャンペーンであることを紹介。その上で、日本国内における肥満症を取り巻く厳しい現状について触れた。両社が一昨年実施した調査によると、一般生活者の約7割、そして当事者の約9割までもが「肥満は自己責任である」と考えているという結果が出たという。
「これは個人の考え方の問題というより、長年にわたって形成されてきた社会の空気や価値観が大きく影響している」と野村氏は指摘する。本プロジェクトでは、動画やアニメーション、企業向け研修ツール、川柳コンテスト、新TVCMなど多角的なアプローチを通じて、肥満症のある人や周囲の人々を先入観から解放し、誰もがいきいきと活躍できる社会の創造を目指すと宣言した。
「肥満症」は治療が必要な慢性疾患。専門医が語る定義と現状
続いて、一般社団法人日本肥満症予防協会 理事長であり、公益財団法人結核予防会 総合健診推進センター 所長の宮崎 滋氏が登壇。「肥満症ってどんな病気?」と題したショートレクチャーが行われた。
「肥満」と「肥満症」、何が違う?
宮崎氏はまず、最も重要な定義の違いについて解説した。BMI(体重kg÷身長mの二乗)が25以上の状態を「肥満」と呼ぶが、すべての肥満が治療対象となるわけではない。
治療が必要な「肥満症」とは、肥満(BMI≧25)があり、かつ糖尿病や高血圧などの健康障害を合併しているか、あるいは内臓脂肪蓄積(内臓脂肪面積100c㎡以上)が確認される場合を指す。日本では2000年に日本肥満学会がこの定義を策定し、単なる体重過多とは区別して「Obesity Disease」として扱っている。
肥満症の現状
日本において肥満(BMI≧25)を有する人口は約2,800万人と推計され、特に成人男性や高齢者においてその割合は増加傾向にある。欧米に比べればBMI30を超える高度肥満の割合は少ないものの、日本人を含む東アジア人は内臓脂肪を蓄積しやすい体質であり、軽度の肥満であっても糖尿病や高血圧などの生活習慣病を発症しやすいリスクがあるという。
肥満症の特徴と対処法
肥満は200以上の健康障害に関連すると言われている。宮崎氏は、これらがドミノ倒しのように連鎖し、脳卒中や心筋梗塞といった重篤な疾患につながる危険性を強調した。
治療の目的は「健康障害の予防・改善」であり、単なる減量ではない。基本は食事・運動・行動療法によるライフスタイルの改善だが、近年は薬物療法や外科療法といった選択肢も広がっている。
また、減量後に体が元の体重に戻ろうとする「生物学的反応(ホメオスタシス等)」が働くため、リバウンドは個人の意志の弱さだけが原因ではないことも医学的に解説された。
「肥満」や「肥満症」の課題
宮崎氏が特に強く訴えたのが、社会的な課題である「オベシティ・スティグマ(肥満への偏見・差別)」だ。「自己管理能力が低い」「怠けている」といった誤った認識が、就職や昇進の不利益につながったり、当事者の自己肯定感を低下させたりしている。
「体重に悩んでから医療機関に相談するまでの期間は約6年」というデータも示され、スティグマが適切な治療の機会を奪っている現状に警鐘を鳴らした。
見取り図・盛山氏の体重遍歴に会場騒然? クイズで学ぶ正しい知識
トークセッションでは、お笑い芸人の見取り図(盛山晋太郎氏、リリー氏)がゲストとして登場。宮崎氏を交え、自身の経験を元にディスカッションが行われた。
話題はまず、盛山氏の体重遍歴について。スクリーンには盛山氏のこれまでの体重推移グラフが投影された。20代前半のMAX125kg時代から、ダイエットとリバウンドを繰り返してきた激しい乱高下に、会場からは驚きの声が漏れるほどだった。
盛山氏は「当時は常に汗をかいていて、そのことに苛立っていた。腰痛もひどく、立ったまま靴下やズボンが履けなかった」と回顧。また、テレビ番組のロケで全員お揃いの衣装が用意される中、自分だけサイズがなく色の違うつなぎを着ることになったエピソードを披露し、「自分は迷惑をかけているのではないかと、家に引きこもりがちになった」と当時のメンタル面の辛さを吐露した。
これに対し宮崎氏は、「サイズの合う服がないことで区別されるのは、まさに差別の構造。肥満の人が自己肯定感を失ってしまう典型的な例だ」と指摘。また、リバウンドする時は脂肪だけが増えるため、結果として筋肉が減り脂肪が増える『サルコペニア肥満』のリスクがある」と医学的な見地から解説した。
続いて、肥満症に関する○×クイズが行われた。
Q1:太る原因は単に自己管理ができていないから。
見取り図のふたりは「〇」を挙げたが、正解は「×」。
宮崎氏は「肥満の原因は遺伝的因子が約50%、生活環境が約50%と言われている。すべてを自己管理の問題とするのは誤り」と解説。リリー氏は「相方を見ていて自己管理できていないと思っていたが、そうではないんですね」と納得の表情を見せた。
Q2:肥満症は「太っている状態」を指す言葉である。
ふたりの回答は「×」で、見事正解。
「単に体重が多いだけではなく、健康障害を伴う、あるいはそのリスクが高い状態が肥満症であり、治療が必要」という点が再確認された。
Q3:肥満症の治療について医療機関に相談することができる。
こちらもふたりは「〇」と回答し、正解。
宮崎氏は「自分だけで判断せず、まずは医療機関を受診してほしい。医師側も『痩せればいい』と突き放すのではなく、病気として向き合う姿勢が必要」と述べた。
「肥満症のただしいミカタ川柳」受賞作発表。当事者の心に寄り添う言葉たち
トークセッションの最後には、本プロジェクトの一環として募集された「肥満症のただしいミカタ川柳」の受賞作品発表が行われた。2週間という短い期間にも関わらず全国から多数の応募があり、関心の高さがうかがえた。
【優秀賞】
「見方変え 味方と治す 肥満症」(たけのこキノコさん)
作者コメント:だらしなさではなく、治療が必要な病気であるという世間の見方が変わってほしい。医師という強い味方と共に歩んでいただきたい。
リリー氏は「『味方』という言葉がいい。周りが敵に思えることもある中で、共に治していくという姿勢が心強い」とコメント。
【優秀賞】
「その肥満 「症」がついたら 要治療」(もりこさん)
作者コメント:単に太っているというだけでなく、健康障害を伴えば、治療が必要となる「肥満症」です。早めの受診を。
【最優秀賞】
「肥満症 ミカタ次第で 光差す」(増田正二さん)
作者コメント:見方を変えることで心が軽くなり、医師が味方になってくれることで心強くも感じる。「みかた」にふたつの意味を込めました。
盛山氏は「『見方』と『味方』のダブルミーニングが素晴らしい。病気だと自覚することで、ひとりで悩まずに取り組めるようになる」と感想を述べた。宮崎氏も「これまでの診療で患者さんに光を差せていたか反省した。医療者が患者さんの思いを受け止め、伴走していくことが重要」と深く頷いた。
誰もが生き生きと活躍できる社会の創造に向けて
会の締めくくりとして、田辺ファーマ株式会社 代表取締役社長 執行役員 COOの辻󠄀村 明広氏が登壇し、総括を行った。
辻󠄀村氏は、本日のポイントを以下の3点に集約した。
■「肥満症」は「肥満」と明確に区別されており、リスクの高い病気である。
■「自己管理だけの問題」と誤解されがちだが、当事者の責任にするべきではない。
■肥満症は医療機関で相談できる疾患である。
辻󠄀村氏は、「本活動は特定の医薬品の販売促進を目的とするものではなく、肥満症に対する正しい理解を広げ、当事者が生き生きと活躍できる社会を作るためのもの」と強調。「肥満症の治療は美容目的のダイエットとは異なり、健康寿命の延伸やQOLの向上を目指す医療です。正しい理解が社会全体に広がるよう、今後も啓発活動に取り組んでいきます」と力強く語り、会見を締めくくった。
「肥満は自己責任」という社会のスティグマを払拭し、「肥満症は治療可能な病気である」という認識を広めること。本プロジェクトの始動は、多くの当事者にとって、まさに「光が差す」きっかけとなるだろう。
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