South65

福知山、綾部、舞鶴 もうひとつの京都で明智光秀ゆかりの地を巡る

(写真上)明智光秀ミュージアムの入り口近くに飾られた、戦国部将画の巨匠・諏訪原寛幸氏による光秀の画。馬の足下の砂利と本物の砂利が同化して見えて、臨場感抜群。

今年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公といえば明智光秀。これまで一般的には主君(織田信長)を討った謀反人のイメージが強かった光秀だが、大河ドラマなどの影響もあってか、今やその人気はうなぎ上りなようだ。55歳でその生涯を終えるまで、光秀は実に様々な場所で人生を送ってきた。そのため「明智光秀ゆかりの地」と手を挙げる地はいたるところに存在し、「本当のゆかりの地はここでしょ!」と一カ所には決められない状況なのだが、それは仕方のないこと。結局、その場所に光秀が関係したという史実があれば、そこは「明智光秀ゆかりの地」なのだ。

今回のテーマは「明智光秀ゆかりの地を巡る旅」。South65編集部も『麒麟がくる』にちなんで、光秀ゆかりの地を訪問することにしてみることにしてみた。目指す場所は、本能寺の変から遡ること3年前、かの織田信長から29万石が与えられた丹波国(現在の京都府北部)。そこには光秀が築城した福知山城をはじめとする「光秀ゆかりのスポット」が存在する。それらを二泊三日という限られた時間の中で、回れるだけ回ってみようというのが今回の旅の目標だ。

人の姿もまばらな土曜日の朝の品川駅から、7時59分発の新幹線のぞみ13号で京都駅へ。続いて京都駅から10時25分発の「特急はしだて3号」で福知山へ向かう。福知山駅に到着したのは11時45分。結局、電車に乗っていたのは4時間かからないくらいか。イメージしていた長旅とは違って、あっという間の道のりだ。

JR京都駅で「特急はしだて」に乗り換え、いざ福知山へ。

京都駅から1時間20分で、福知山駅に到着した。

改札口を出て、最初に向かったのは福知山観光案内所。ここ福知山に限らず、知らない土地で観光するなら、まずは観光案内所に行くことをオススメしたい。観光案内所はその地域の観光協会が運営していることが多く、観光情報のストックが豊富なのだ。取材で全国を回る本誌『男の隠れ家』では、現地取材の前にまず観光協会に連絡し、あらかじめ調べた情報のほかに地元でしか知られていないスポットなどをリサーチするようにしているほど。最近はインスタグラムやツイッターなどで情報を収集する人も多いが、現地で顔を出して「オススメを教えて」と伝えるだけでネットには流れていない情報を仕入れられることもあるので、ぜひ活用してほしい。

まずはJR福知山駅北口にある福知山観光案内所で情報収集。

明智光秀の家紋「桔梗紋」が描かれたマスク。光秀は水色桔梗を使用していたという。

ペットボトル茶も光秀仕様。

福知山観光案内所
京都府福知山市駅前町439 JR福知山駅北口
TEL/0773-22-2228
dokkoise.com/

光秀色満載の観光案内所で情報を仕入れたら、旅の荷物を預けるために今晩の宿となる福知山アークホテルへ。こちらの1階にあるレストラン「食房 和楽」では大河ドラマ放映を記念して、地元の食材をふんだんに使用した特別御膳「光秀ききょう膳」を提供しているという。京都についてからまだ何も口にしていない自分は、その光秀ききょう膳を迷わず注文。

JR福知山駅北口から歩いて3分ほどの場所にある「福知山アークホテル」。

ぼたん鍋やかんぱちなどの主役級食材はもちろん、驚いたのはしめじの天ぷらの美味しさ。この京丹波町産大黒しめじは我々がよく口にするぶなしめじとは別物らしく、「香り松茸、味しめじ」と謳われるほどの旨さが特徴。個人的に大好きな鮎の甘露煮も食べられて幸せな気分に。

丹羽春日の黒豆ごはん、京丹波町産大黒しめじの天ぷら、丹羽篠山のぼたん鍋、京都魚市場直送のかんぱち、由良川産鮎の甘露煮など、旧丹波国地域の食材をふんだんに使用した「光秀ききょう膳」(税込2,280円)。

福知山アークホテル
京都府福知山市末広町1丁目24
TEL/0773-24-3333
f-ark.com/

食房 和楽
京都府福知山市末広町1丁目24 福知山アークホテル1F
TEL/0773-24-3373
waraku-fukuchiyama.owst.jp/

(次ページは観光スポット)

福知山光秀ミュージアム

2020年大河ドラマ「麒麟がくる」の放送に合わせ、福知山城公園内の佐藤太清記念美術館2階に設置された「福知山光秀ミュージアム」。来年(令和3)1月11日までの開催。

さて、ここからが観光らしい観光のスタート。最初に訪れたのは、福知山城公園の佐藤太清記念美術館内で今年1月にオープンした「福知山光秀ミュージアム」。「麒麟がくる」大河ドラマ企画展に加え、ドラマで時代考証を担当した小和田哲男氏監修の「明智光秀の生涯と丹波・福知山」など光秀ゆかりの品々や資料が展示され、コロナ禍にも関わらず多くの人たちが来場していた。

入り口では「麒麟がくる」のパネルがお出迎え。

現存する重要資料の数々も展示されている。

福知山光秀ミュージアム
京都府福知山市岡ノ32-64 福知山城公園内 佐藤太清記念美術館
TEL/0773-22-1010
city.fukuchiyama.lg.jp/site/mitsuhidemuseum/

福知山城

福知山城を築城した初代城主・明智光秀は娘婿の明智秀満を城代として入れ、地子銭の免除や治水事業などの善政を行った。

丹波平定を信長に命じられた光秀が、西国攻略に向けた拠点として1579(天正7)年に築城した福知山城。丹波エリアにおける光秀伝説のシンボルともいえる存在だ。同じ敷地内の福知山光秀ミュージアムから坂を登っていくと、甲冑に身を包んだ武者たちがお出迎え。話しかけると気さくに受け応えしてくれる武者たちと記念撮影した後は、城内や石垣などを見学。所々に灯籠などが見え隠れする野面積みの石垣は思った以上に頑丈で、築城からこれまで倒壊したことがないとか。

未加工の自然石が積み上げられた天守閣の石垣は「野面(のづら)積み」「乱石積み」などと呼ばれる技法。五輪塔や石仏、灯籠などの石造物も石材として大量に利用され、これらは転用石と呼ばれている。石垣の表面をよく見ると、転用石の姿が確認できる。

本丸に残る井戸「豊磐井(とよいわい)」。井戸の深さは50mで、これは城郭本丸内の井戸としては日本一。

福知山城公園
京都府福知山市内記1
TEL/0773-23-9564
city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/7/2014.html

御霊神社

明智光秀の霊が祀られている御霊神社。

大河ドラマで印象がよくなったとはいえ、やはり光秀に対する世間のイメージは謀反人。しかし、ここ福知山での光秀の評価は全然違って良君なのだ。というのも光秀がこの地の礎を築いてくれたから。「光秀公のおかげで城下町として発展できた、ありがたや〜」というわけだ。史実によれば、それは本能寺の変のわずか3年ほど前のこと。民にとっては光秀は謀反人と聞かされても納得いかず「我らが良君が謀反人などありえない、冤罪だ〜!」と騒ぎ、この神社で光秀を祀るようになったという。

案内板によると、ここで光秀の霊を祀り始めたのは1737(元文2)年、朽木稙昌の統治時代のこと。神社前の御霊公園では毎年10月に「丹波福知山御霊まつり」が開催され、多くの人で賑わう。

実はパワースポットとしても人気の御霊神社。とくに境内にある「叶石」は願いを叶えてくれると話題になっている。ここで願掛けする時は、欲張らずにひとつだけ。ふたつ以上だと、すべて脚下されるらしい。

御霊神社
京都府福知山市中ノ238
TEL/0773-22-2255
kyoto-jinjacho.or.jp/shrine/19/057/

天寧寺

国の重要文化財「絹本著色十六羅漢像」「絹本著色即休契了像」などが伝わる、福知山市を代表する古刹・天寧寺。足利氏との縁も深い。

辺りを豊かな緑に囲まれた臨済宗妙心寺派の寺院・天寧寺。お堂に入ると、その天井一面に描かれた巨大な龍の画に驚かされる。ただ大きいだけではなく、正円の中でトグロを巻くように描かれているその姿がやけに生々しくて怖いほど。そんな龍に見下ろされながら住職に見せていただいたのが、光秀と秀満(左馬助)が書いた書状(のレプリカ)。その内容は「この寺は陣地にしてはならぬ、竹木も切ってはならぬと」というもので、光秀にとってこの寺は特別なものだったことがわかる。

京都の著名な画家・原在中氏によって描かれた巨大な雲龍の天井画は迫力満点。今にも天井から龍が降りてきそうな不思議な気持ちにさせてくれる。

光秀の書状(レプリカ)と、住職の石角彰啓さん。

天寧寺
京都府福知山市字大呂1474
TEL/0773-33-3448
yakushi49.jp/27tenneiji/

(次ページは絶品グルメ)

とりなご久兵衛

パッと見で何の店だかわからない店構えは名店の証。とりなご久兵衛も例に漏れず、ひと目見ただけではわからない。

福知山のグルメといえば「鳥名子」の鴨すき。恵比寿や三軒茶屋にも支店ができ、今では東京でも食べられるようになったそうが、まだ食べたことがないし、せっかく本拠地に来たからには地元で食べてみたい。ということで向かったのが、「鳥名子」の系列店「とりなご久兵衛」。

福知山の商業の礎を築いた片岡久兵衛の本宅を修復した同店は、今年6月にオープンしたばかりとはいえ旧家の気品と趣が漂う素敵な造り。入り口に足を一歩踏み入れた瞬間からその空気感に圧倒され、心なしか背筋がピンと伸びているのが自分でもわかる。「こりゃ気合いを入れて立ち振る舞わなきゃならないぞ」なんて考えながら店内に入ると、どうも想像していた雰囲気と様子が違うことに気づいた。高級店にしては店員さんがフレンドリーなのだ。それに、通された客室の隣の大部屋ではおそらく家族四世代と思しき集まりの会が催されているようで、普通にイタズラ盛りの子どもたちもいるし、サラリーマンの飲み会のような集まりも来店しているではないか。

「こんな高級店なのに、普通の人たちが普通に来店している。なぜ?」という疑問は、テーブル上のメニューを見た時に解決された。価格設定がリーズナブルなのだ。鴨すきが一人前3,000円(注文は二人前から)。追加の鴨肉は2,000円。締めに鍋に入れるラーメンやうどんに至っては、なんと300円と書かれている。だからみんな気軽に食べに来ているわけだ。

といったところで、気になる鴨すき。料理名に「すき」とあるので勝手にすき焼きのようなものを想像していたのだが、運ばれてきたのは醤油ベースの出汁に薄切りの鴨肉をくぐらせるしゃぶしゃぶスタイル。ただ、鍋の中の出汁自体に味がついているので、湯にくぐらせた後につけ汁で味をつけるしゃぶしゃぶとはちょっと違う。鴨肉は15秒、肉とともに口に入れるネギは5秒がくぐらせるベストタイムだそう。口に入れると、薬味と食材の中間に位置する瞬間のシャキッと感が残ったネギの香りと、硬くない鴨肉の旨みがハーモニーを奏でる。おそらく「これが鴨肉の究極の食べ方」と表現するのが適切ではなかろうか。これまで鴨せいろの煮込んで硬くなった鴨が旨いと感じていた自分を少し恥じてしまった。

こちらがとりなご名物の「鴨すき」(写真は二人前 6,000円)。具材は鴨肉とネギ、豆腐だけのシンプルな構成ながら、鍋の出汁に染み出した鴨の旨みとあっさりとしたネギの食感がベストマッチでいくらでも食べ続けられる。

とりなご久兵衛
京都府福知山市字下柳12
TEL/0773-23-1366
instagram.com/torinago_kyuubee/

福知山イル未来と

ピンク色に照らされた福知山城。戦火の最中の城は、こんな感じだったのだろうか。

お腹いっぱい鴨すきを食べたあとは、再び福知山城へ戻ることに。お店を出るとあたりはすっかり夜なのに、なぜ再びお城へ? 答えは期間限定で福知山城がイルミネーションで彩られているから。この「福知山イル未来と2020」は福知山公立大学が中心になって行われる光のイベント。例年は数日間のみの開催だが、今年は新型コロナウイルスの影響で、密を避けるため期間を一カ月間に伸ばして11月7日まで開催するという。興味のある人はぜひ。

プロジェクションマッピングで照らされ幻想的なイメージになった登城坂(下は動画)。

福知山イル未来と2020
facebook.com/fukuchiyamaillumi/

福知山観光協会
dokkoise.com/

モバイルバージョンを終了