日々の慌ただしい生活の中で、私たちはどれほど「歩くこと」そのものに意識を向けているだろうか。駅への移動、買い物、通勤通学――単なる“移動の手段”として片付けてしまいがちな一歩一歩。だが、しっかりと大地を踏みしめて歩く時間は、身体を健やかに整えるだけでなく、沈んだ気分を晴らし、見慣れた景色を鮮やかに塗り替える力を持つ。
健康寿命の延伸やウェルビーイングへの関心が高まりを見せる昨今、アシックス商事株式会社は2026年9月15日(火)、帝国ホテル 東京 本館「孔雀南の間」にて、ASICS Walkingの新たなフラッグシップモデル「MOON AMBLE(ムーンアンブル)」の発表会「MOON AMBLE LAUNCH EVENT」を開催した。
当日は、株式会社アシックス 代表取締役会長CEOの廣田康人氏が登壇し、ウォーキングを今後のアシックスの成長を支える戦略的かつ重要なカテゴリーのひとつとしてグローバル規模で育てていく方針を発表。続いてアシックススポーツ工学研究所(ISS)の首脳陣より、従来の枠組みを超えた「歩きやすい」のさらに先にある「もっと歩きたくなる」歩行体験を導き出した開発背景と、独自の開発アプローチが明かされた。
さらに特別ゲストとして、新作シューズを華麗に履きこなした女優・歌手のすみれさんが登場。ステージ上に設置されたウォーキングマシンで軽やかな歩行を披露したほか、心身を整える「歩くこと」の魅力や私生活でのエピソードを語り尽くした。
「歩くならアシックス」を世界へ――創業哲学と40年の蓄積が生む成長戦略
司会を務めるフリーアナウンサー・竹内由恵さんの挨拶に続き、ステージに登壇したのは株式会社アシックス 代表取締役会長CEOの廣田康人氏。廣田氏はまず、なぜ今アシックスがこれほどまでにウォーキングへ注力するのか、その経営的ダイレクションと熱き想いを語り始めた。
「アシックスは創業以来、スポーツを通じて人々の心と身体の健康に貢献することを大切にしてきました。そして今、我々はその価値を競技やトレーニングの場だけでなく、より多くの人々の日常生活へと広げていきたいと考えています」
その挑戦において、極めて大きな可能性を秘めているのが「ウォーキング」だという。年齢やスポーツ経験の有無を問わず、世界中の人々が毎日行う普遍的な営み。そこにこそアシックスの真価を発揮する舞台がある。
アシックスは1983年からウォーキング事業に取り組み、40年以上にわたって足と歩行の研究を継続。さらに70年以上に及ぶアスリート支援の歴史の中で、人体と運動メカニズムに関する膨大な知見を蓄積してきた。「この2つの強みを掛け合わせれば、アシックスだからこそ提案できる新しい価値が作れるはずだ」――そう確信した廣田氏は、約1年前に開発チームへ極めて挑戦的な号令を下したという。
「これまでの延長線ではない、新しいウォーキングシューズを作れ。単にもっと軽くする、もっと柔らかくするという話ではない。歩きやすいのさらに先にある、自然と“もっと歩きたくなる”ような体験を作れないか。それが今回の開発のスタートでした」
誕生した『MOON AMBLE』は、単なるひとつの新商品にとどまらない。ここで培われた研究・技術・思想はウォーキングカテゴリー全体へ波及し、日本のみならずグローバル市場の成長ドライバーへと育成される。「将来、“歩くならアシックス”と世界中のお客様に思っていただける存在を目指す」――廣田氏の力強い言葉に、会場は大きな期待感に包まれた。
人の“感覚”まで科学する挑戦――ISSが挑んだ「ヒューマンセントリックサイエンス」の真髄
続いて登壇したのは、アシックスの研究開発の中核を担うアシックススポーツ工学研究所(ISS)の竹村周平所長。経営陣から提示された「もっと歩きたくなる体験」というテーマに対し、科学者集団はどう向き合ったのか。
「ダイレクションを受けて我々が最初に考えたのは、『歩きたくなるという人の気持ちに、科学はどこまで踏み込めるのか』ということでした」
従来のISSにおけるアプローチは、より速く走る、より高く跳ぶといった、明確な運動目的を数値化し、アスリートのパフォーマンスを最大化する機能を導き出す手法が中心であった。もちろんウォーキングに関しても長年のデータ蓄積がある。しかし今回課されたミッションは、その先にある人間の内面的な領域。「もう少し歩いてみたい」「またこの靴を履いて外へ出かけたい」という、人の情緒的な感覚そのものを科学的に捉える試みである。
人を起点に問いを立て、動きだけでなく感覚まで科学的に捉えて商品へ昇華させる――これこそISSが掲げる「ヒューマンセントリックサイエンス(人間中心の科学)」の根幹。研究所、開発部、商品企画部が一丸となり、感情を具体的な設計目標へ落とし込むための指針として打ち出されたのが、「3つのWOW(ワオ)」というコンセプトだったという(後述)。
月面を軽やかに歩むように――新フラッグシップ『MOON AMBLE』アンベール
竹村所長の説明を経て、暗転した場内にプロモーション映像が流れる。重力から解き放たれたかのように弾み、軽やかに街を歩き抜けるシルエット。その映像が終わると同時に、ステージ中央に用意されたベールを廣田CEOと竹村所長がオープン。
メディア人が注目する中で現れたのは、これまでのウォーキングシューズの固定観念を覆す、モダンで力強いフォルムを纏った新フラッグシップモデル『MOON AMBLE』だ。
間近で対面した廣田CEOは、「機能性だけでなく、デザイン的にも非常に優れたシューズができた。実際に私も履いて歩いてみましたが、どこまでも歩いていけるような感覚を抱かせる一足。ぜひ多くの方に体験してほしい」と、会心の笑顔を見せた。
3つの「WOW」を具現化したソール設計――心地よいバウンス感と洗練のデザイン
続いて、具体的な商品解説のパートへ。まずはISSマルチスポーツ機能研究部の市川将部長が、抽象的な感覚を具現化するためのフレームワーク「3つのWOW」について解説を行った。
①手に取った瞬間のWOW:見た瞬間、触れた瞬間に「履いてみたい」と心を動かすデザインと質感。
②履いた瞬間のWOW:足を入れた瞬間に包み込まれる心地よさと極上のクッション性。
③歩いた瞬間のWOW:最初の一歩を踏み出した瞬間に押し寄せる、これまでにない反発感と推進力。
「これらを単なる情緒的な言葉で終わらせず、具体的な設計目標として設定しました。歩行時の身体の挙動、足裏にかかる圧力、重心移動の軌跡といった定量的な動作解析に加え、着用者がどう感じるかという定性的な感覚評価を幾重にも反復。人の動きと感覚の両輪から“歩きたくなる”を設計したのです」と市川部長は語る。
この設計思想を余すところなくプロダクトへ落とし込んだのが、商品担当の野々川舞マネジャーだ。野々川氏がまず強調したのは、足元を支えるソールの革新的構造である。
最大の特徴は、ミッドソールに採用された独自配合の新素材「HOP FOAM(ホップフォーム)」。弾むような反発性を持つこのフォーム材を、硬度の異なる2層構造で配置。これにより、極上のクッション感を演出しながら、歩行時の着地においてかかとが内側や外側へ過度に倒れ込むのを抑制し、高い安定性を確保している。
さらに前足部の靴底には「WALK POD SYSTEM(ウォークポッドシステム)」を搭載。ランニングとは異なる歩行特有の重心移動軌跡を徹底的に研究し、やわらかいHOP FOAMを突出させて配置した。蹴り出しを支えるT字型のラバー意匠、つま先部に設けられた絶妙なカーブ形状との相乗効果により、心地よい「バウンス」とともに足が自然と前へ前へと転がるような推進力を実現しているという。
デザイン面においても妥協はない。高い反発性能を直線的なラインで視覚化しつつ、アシックスが革靴づくりで培ってきた上質なマテリアルを融合。日常のワードローブに美しく溶け込む佇まいを追求した。キーカラーには「弾むエネルギー」を象徴する鮮やかなオレンジを採用している。
ラインナップは、軽快で通気性に優れたジャカードメッシュタイプ(1213A006/税込25,300円)、上質な質感を醸し出すスムースレザータイプ(1213A007/税込35,200円)、そしてアッパー全面にスエードレザーを奢った伊勢丹新宿先行販売モデル(1211A123・メンズ/税込40,700円)の3タイプを展開。2026年9月16日(水)より順次発売される。
「一生歩けるくらい気持ちいい!」――すみれが体感した驚きの弾力感と「歩く豊かさ」
会場の空気がいっそう華やいだのは、特別ゲストの女優・歌手、すみれさんがステージへ招き入れられた瞬間だった。
シックで端正なセットアップの足元に、オレンジのアクセントが効いた『MOON AMBLE』を合わせた洗練のスタイリング。野々川氏が「ウォーキングシューズ感が少なく、とてもスタイリッシュ」と絶賛すると、すみれさんも満面の笑みで応じる。「本当に何にでも合います! カチッとしたスーツスタイルをほどよくカジュアルダウンしてくれますし、先日の撮影ではドレッシーなワンピースに合わせたのですが、オレンジやシルバーが映えてとても可愛かった」と、ファッションアイテムとしてのポテンシャルの高さに太鼓判を押した。
ここで、ステージ上にはウォーキングマシンが登場。すみれさんが実際にシューズを履いてマシンの上を歩き、その履き心地をリアルタイムでリポートする試みが行われた。
ベルトコンベアが動き出し、軽快な足取りで歩き始めるすみれさん。
「軽い! そして、形が足をアシストしてくれているのか、ぐんぐん前に進む感じがします。クッションも本当にバウンシー! さすがムーンアンブル、まるで宇宙を歩いているみたい。リズム感も良くなって、一生歩き続けられるんじゃないかって思うくらい楽しいです!」
野々川氏も「まさにその自然と前に進むバウンス感覚こそ、私たちが目指した“もっと歩きたくなる”体験です」と深く頷いた。
普段から毎朝30分から1時間のウォーキングを行い、1日1万歩を目標にしているというすみれさん。彼女にとって、歩く時間は単なるフィジカルトレーニングを超えた、かけがえのないメンタルケアの時間でもあるという。
「仕事でうまくいかなかったり、子どもや夫に対して少しイライラしてしまったりした時、外へ出て自然に触れながら歩くと、頭がすっと冷えて気持ちをリセットできるんです。アシックスさんの『Sound Mind, Sound Body』という言葉通り、歩くことは心と身体の健康に直結していると実感します。旅先でも必ず歩きますね。車や電車移動では見落としてしまう街の素顔や自然の息吹を、歩くことで肌で感じられるから」
発表会後の囲み取材でも、すみれさんの“歩行愛”とシューズへの絶賛は止まらなかった。
「トレンドのボリューム感があるチャンキーなソールなのに、持っても履いても本当に軽い。ハイブランドの厚底靴は重いものが多いけれど、これは別格。息子が走り回るテーマパークや長距離の旅行には絶対にこれしか履けないですね」
話題が家族へ及ぶと、父親である石田純一氏に関するユーモラスなトークで報道陣を沸かせる場面も。
「パパは千葉で焼肉屋さんをやっていて、あんなバブルを経験した人なのに(笑)、夜遅くまで電車移動で頑張ってたくさん歩いているみたい。だから、このスエードのダークブラウンのモデルをクリスマスにプレゼントしたいですね。男性のジャケット姿にもすごく似合いそう。ただ、パパはすぐ靴下を履かないから、この靴を履くときはちゃんと靴下もセットであげないと(笑)。ちなみに今日の私の足元もノーソックス。スタイリストさんと足首を見せたほうがすっきりするねって話して決めたんですけど……遺伝子ですね(笑)」
また、4歳になる愛息の成長についても言及。「最近はもう体重が23kg、身長が111cmもあってすごく大きいんです。勝手にかくれんぼを始めてピュッと走って消えちゃうから、母としては毎日心臓が止まりそう。今週は息子の運動会もあるので、この靴を履いて全力で追いかけ回りたい。いつかアシックスさんに息子のスポンサーになってもらえるくらい、スポーツ好きな子に育ってくれたら嬉しいですね」と、母としての温かな笑顔を覗かせた。
歩くことは、生きること――大切な人の足元へ贈りたくなる、前を向くための一足
「歩きやすい」という機能の満足を超え、人の内面を動かし「もっと歩きたくなる」衝動へと昇華させる――アシックスウォーキングが結実させた『MOON AMBLE』は、歩くという日常の何気ない動作を、生き生きとした人生の歓びへと変える力に満ちている。
足を入れた瞬間に広がる安心感、そして踏み出した足裏を軽やかに跳ね上げるバウンス感。一連のスムーズな体重移動を体感していると、ふと私事ながら、今年6月に膝の手術を受けた80代の母の姿が脳裏をよぎった。
退院後、懸命にリハビリを続けているものの、歩くことへの恐怖心や億劫さを拭いきれず、日々の散歩でも足取りが重そうに見える母。かつてのように外の空気を吸い、季節の移ろいを楽しんでほしいと願いつつも、かける言葉が見つからないもどかしさを抱えていた。
だが、この靴の驚くべき軽さと、倒れ込みを防ぐ確かなホールド感、そして自然と足を前へと送り出してくれる推進力に触れたとき、直感した。この『MOON AMBLE』を母の足元に届けたい、と。
「もう一度、歩くのが楽しくなったよ」――そんな母の笑顔が、確かに思い浮かぶ。若者のアクティブな日常や旅のパートナーとしてはもちろん、足元に不安を抱え始めた世代の背中を優しく押し、再び外の世界へと連れ出す希望の翼にもなり得るのではないか。
歩くことは、健やかに生きることそのもの。アシックスが拓く新たな歩行体験は、世代や国境を越え、多くの人々の心と身体を軽やかに前へと弾ませていくに違いない。
