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一杯のうどんが結ぶ産地と食卓――「自家製麺 杵屋」全店で三重県産「あやひかり」100%へ刷新、外食の現場から挑む「大人の食育」

全国に350店舗以上の飲食チェーンを展開する株式会社グルメ杵屋グループ。その中核を担う株式会社グルメ杵屋レストランは、全国の「自家製麺 杵屋」全店舗において、2026年10月1日(木)よりうどんに使用する小麦を全面刷新。うどんへの加工適性に優れた三重県産小麦「あやひかり」の一等粉(特等粉)100%を杵屋オリジナルの小麦粉『伊勢のひかり』として統一し、新たな一杯の提供を開始した。

その切り替え規模は、年間800トン超。全店規模での国産単一品種への移行は、外食産業においても極めて異例の決断といえる。背景にあるのは、麺の食味向上と品質の安定。そして何より、外食の現場から「国民の食卓と生産現場の距離を縮める」という強い意志だ。

10月6日(火)、東京・日本橋の「三重テラス」にて開催された本取り組みの発表会の会場にはグルメ杵屋のみならず、三重県、JA全農みえ、さらには農林水産省からも登壇者が集結。官民と産地が固く手を携えて日本の食文化と農業の未来を切り拓く、熱気あふれる発表会の模様をレポートする。

料理の提供から「背景を伝える」外食へ――一杯のうどんを農業への入口に変える決断

発表の口火を切ったのは、株式会社グルメ杵屋の執行役・河上崇陽氏。河上氏は、外食産業が果たすべき本来の社会的責任について力強く語り始めた。

外食企業の役割は、単に美味しい料理を提供することだけにとどまらない。どの料理の向こう側にも、土を耕し作物を育てる生産者がおり、加工し、運び、調理する無数の人々が存在する。その背景や価値を生活者へ丁寧に伝えることこそが、外食産業の果たすべき大切な使命である――。河上氏の言葉には、創業以来の誇りと責任感がにじむ。

「自家製麺 杵屋」と三重県産小麦「あやひかり」との出会いは、現社長・椋本充士氏の商品開発時代にまで遡る。様々な小麦を試作する中で偶然出会った「あやひかり」で打ったうどんは、これまでにない豊かな食味と驚くべき食感を放っていた。「いつか、このうどんを杵屋の全店でお出ししたい」。長年抱き続けたその願いが、JA全農みえをはじめとする産地の協力によって安定供給の体制が整い、ついに結実したのである。

さらにこの刷新は、同社が長年注力してきた食育活動「杵屋 うどん打ち教室」へも波及する。1971年の「実演手打ちうどん 杵屋」1号店開店以来、半世紀以上にわたって培ってきた手打ちの技術。それを伝える体験教室の使用小麦も、すべて「あやひかり」へと切り替えるという。

「つくる・食べる・知る」をひとつの体験へ。小麦粉から生地をこね、足で踏み、伸ばし、切り、茹でて味わう。自分の手で体験することで、生産という「川上」から消費という「川下」までを身体全体でつなぐアプローチだ。

折しも国は、第5次食育推進基本計画において「大人の食育」を重点事項に掲げている。朝食欠食や偏った食生活が目立つ現代において、グルメ杵屋は農林水産省が主導する「官民連携食育プラットフォーム」へ参画。日常的に生活者と接する外食の現場から、世代を超えた食の学びを発信し、日本の食文化を次世代へ継承していく構えだ。

南北に広がる豊かな風土が育む三重の小麦

続いて登壇したのは、三重県 農林水産部 農産園芸課 課長の武雅宏氏。豊かな自然に恵まれた三重県の風土と、全国有数の規模を誇る農産物のポテンシャルについて解説した。

三重県は、南北に長く伸びる地形が特徴だ。北部から中部にかけては鈴鹿山脈などを背に広大な伊勢平野が広がり、南部は熊野灘に面したリアス海岸と紀伊山地が織りなす温暖な自然が広がる。東西の大消費地である名古屋と大阪の中間点に位置し、工業都市としての顔を持つ一方で、古くから多彩な農業が栄えてきた。

県内農地の約75%を田んぼが占める屈指の米どころであり、西日本一の生産量を誇る「コシヒカリ」や、大粒で冷めても旨い開発品種「結びの神」などの早期米が名高い。さらに、南紀の温暖な気候がもたらす極早生の「南紀みかん」、鹿児島・静岡に次ぐ全国第3位の生産量を誇る「伊勢茶」(煎茶・かぶせ茶・深蒸し煎茶)など、特筆すべき農産物が目白押しだ。

そして今、大きな存在感を放っているのが「小麦」である。水田の転作作物として栽培が盛んに行われ、作付面積は全国第4位、収穫量は第5位。まさに全国屈指の麦作産地へと成長を遂げている。そして県内で生産される小麦のうち、実に約7割を占める基幹品種が「あやひかり」だ。

武氏は、「全国規模の飲食チェーン全店で三重県産小麦を100%採用いただく取り組みは初めて。産地として大変名誉であり、身が引き締まる思い。今後も安定した生産を維持できるよう、県としても最大限のバックアップを行いたい」と、力強いエールを送った。

「2年3作」の輪作が支える安定供給の現場

では、なぜ「あやひかり」が選ばれ、いかにして年間800トン超もの供給が可能となったのか。その生産現場と流通の裏側をJA全農みえ 副本部長 兼 米穀部長の齋藤朗氏が解説した。

かつて三重県の小麦栽培は「農林61号」が主流だったが、倒伏しやすく病害に弱い難点があり、収量の乱高下に悩まされ続けたという。そこで収量の安定と優れた製麺適性を求めて試験栽培が重ねられ、平成14年(2002年)に県の奨励品種に指定されたのが「あやひかり」だ。

あやひかり最大の特徴は、デンプン中の「アミロース」含量が低い低アミロース小麦である点。これにより、麺に加工した際に極めて高い粘弾性と滑らかなつるつる感が生まれる。柔らかくもっちりとした郷土の味「伊勢うどん」はもちろん、近年ではそのしっとり感を活かしてカステラや洋菓子にまで用途が拡大している。

この優れた小麦を外食チェーン全店へ安定して届けるため、産地が構築したのが「2年3作のブロックローテーション」という持続可能な輪作システムだ。1年目は初夏に田植えを行い、秋に米を収穫。その後の11月に小麦を播種する。2年目の初夏(5〜6月)に小麦を収穫し、すかさず大豆を播種。冬(12月)に大豆を収穫した後、翌春の米へとつなぐ。

この合理的なブロックローテーションにより、水田の高度利用と地力維持を両立。地域全体で農地をまとめ、集団で作業を行うことで、大規模かつ高品質な安定生産を実現させている。

さらに、収穫されたあやひかりは100%県内の製粉会社を通じて流通。産地と実需者がダイレクトに結びつく体制を整えている。「気候変動による影響を抑えるべく、栽培指導を徹底している。実需者の声を聞きながら、安定供給に全力を尽くす」と齋藤氏。生産者の誇りが、安定調達の強固な土台となっている。

生活習慣の乱れと農業の距離を埋める「大人の食育」

続いて、国の食育施策をリードする立場から登壇したのは、農林水産省 大臣官房審議官(消費・安全局担当)の岡朋史氏だ。

岡氏は冒頭、三重県出身の縁に触れつつ、松阪牛から海の幸、地酒、そして伊勢うどんに至るまで豊かな食文化を誇る三重県の魅力に言及。「あやひかり」が全国の食卓へ羽ばたくことへの大きな期待を寄せた。

いま、日本の食卓は大きな転換点を迎えている。成人層における朝食の欠食、栄養バランスの偏り、そして日々の食卓と生産現場である農業との物理的・心理的な乖離。便利さと引き換えに、食べ物がどこでどう作られているのか見えにくくなっているのが実情だ。

折しも、2005年に制定された食育基本法は、2024年5月に約20年ぶりとなる抜本的改正が行われた。食料安全保障の確保に向けた合理的な価格形成への理解促進とともに、新たに「大人の食育運動の推進」が明確に位置づけられたのである。

健全な心身を保つための食生活の実践のみならず、大人が生産の現場に思いを馳せ、食を支える農業や農村への理解を深めること。それこそが、現代に求められる「大人の食育」の本質だ。

岡審議官は、外食企業が持つ発信力に強い期待を示す。「外食産業は、年間を通じて極めて多くの生活者と直接接点を持つ日常の学びの場。グルメ杵屋が『官民連携食育プラットフォーム』に加わり、うどん打ち教室や店頭を通じて食の背景を伝えていくことは、大人の食育を社会へ根づかせる上で極めて意義深い」と総括。外食の現場が担う新たな教育的価値を高く評価した。

粉から麺へ、五感で学ぶ職人の技

発表会の後半では、グルメ杵屋が誇る食育の真骨頂「うどん打ち教室」の実演が行われた。実演を務めるのは、株式会社グルメ杵屋レストラン 杵屋うどん打ち教室校長の宮尾哲夫氏。軽妙な語り口とともに、プロの技が披露された。

本来の教室は、小麦粉に塩水を合わせる粉の状態からスタートする。小さな園児から95歳の高齢者までが参加し、全身を使って生地を踏み込む「足踏み」は一番の盛り上がりを見せるという。熟成を待つ間には、農水省の「食育ピクトグラム」を活用したクイズを実施。大人には出汁の引き方や栄養バランス、子どもには手洗いの大切さを伝えるなど、参加者に合わせた学びを提供する工夫が凝らされている。

壇上に用意されたのは、しっかりと熟成を終えた丸い麺体。ここから宮尾校長による「延ばし」と「切り」の実演が始まった。

「うどんのコシを生むグルテンは、強い力をかけすぎると壊れてしまいます。優しく、体重を乗せながら、人間の体温をじっくりと伝えて熟成を促すのが極意です」

麺棒を巧みに転がし、生地を四方へ均一に延ばしていく。麺棒を引き寄せる際、表面に細かいシワや傷がつかないよう、わずかに生地を浮かせながら転がす職人技。流れるような手さばきに、会場中の視線が釘付けとなる。目指す厚みは、茹で上がりの膨らみを計算に入れた3.5〜3.7ミリ。まさに餃子の皮よりわずかに厚い絶妙なラインだ。

生地が延び切ると、本場・讃岐の製麺所でも愛用されるプロ仕様の手動麺カッターがセットされた。左手で生地をガイドし、リズミカルに包丁を落としていくと、瞬く間に美しい一本一本のうどんへと姿を変えていった。

黄金色の関西だしを吸い込む至福の麺

実演後には、リニューアルされたばかりの看板メニュー「きつねうどん」の試食がメディア陣に振る舞われた。運ばれてきた器からは、立ち上る芳醇な削り節の香りと、油揚げの甘辛い香りが鼻腔をくすぐる。店舗と同じく、会場併設のキッチンで朝から丁寧に仕込まれた一杯だ。

箸を取り、まずは麺をすする。唇を滑り抜ける感触は驚くほどみずみずしく、つるりとなめらか。歯を沈めると、中心部から心地よい弾力が押し返してくる。低アミロース小麦「あやひかり」ならではの、豊潤なもちもち感だ。

何より際立つのは、関西風の薄味出汁との親和性だ。昆布と削り節の旨味が凝縮した黄金色のだしを、麺がしっかりと吸い上げ、噛むたびに出汁の風味と小麦本来の素朴な甘みが口いっぱいに広がる。

毎朝店内で仕込まれるきつね揚げも圧巻の存在感。ふっくらジューシーなお揚げの甘みが出汁に溶け出し、しなやかな麺と三位一体のハーモニーを奏でる。

質疑応答において、ブランドマーケティング部部長の原田朋幸氏は「温かい出汁をよく吸って絡むのがこの麺の最大の特性。まずは看板のきつねうどんでその真価を味わってほしい。もちろん、冷水で締めたざるうどんでも、引き締まったコシとツルツルの喉越しを存分に堪能できる」と語っていたが、その言葉に偽りはない。伝統の讃岐の技と大阪の出汁文化に、三重の豊かな大地がもたらした恵みが見事に融合した、完成された味わいだ。

一杯のうどんが切り拓く、日本の農業と外食の持続可能な未来

年間800トンを超える小麦の切り替え。それは、外食チェーンにおける単なる「原材料の見直し」という枠組みを遥かに超えた挑戦である。

自社都合のコスト論ではなく、麺の極上の美味しさをどこまでも追求した結果としての「あやひかり100%」。そしてその背景には、持続可能な輪作体系で大地を守る生産者の営みと、地域農業を支えるJA・行政の強固な連携が存在する。

外食の現場が産地と真正面から向き合い、その価値を一杯の器に乗せて生活者へと届ける。消費者はその美味しさに感動し、背景にある物語を知ることで、自らの食の選択に確かな誇りを持つ。これこそが、食育基本法が目指す「持続可能な食と農の循環」そのものだ。

「一杯のうどんを、日本の農業を知る入口にする」

グルメ杵屋が掲げたその誓いは、日常の外食という身近な風景から、日本の食文化と農業の未来を力強く照らし出している。全国の店舗で供される打ち立ての麺をすする時、私たちは確かに、三重の豊かな大地とつながっているのだ。

自家製麺 杵屋
https://gourmet-kineya.co.jp/brands/kineya/

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