患者の「遠慮の壁」を取り払う秘匿型ePROシステム、IBD患者322人を対象に有効性を確認

千葉大学医学部附属病院とNTTドコモビジネス株式会社らの共同研究チームは、炎症性腸疾患(IBD)患者を対象に、世界初の秘匿型ePROシステム「ASAHI」を開発し、その有効性を確認しました。
概要
千葉大学医学部附属病院とNTTドコモビジネス株式会社らの共同研究チームは、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)患者を対象に、プライバシーを守りながら患者実態の収集を目指す秘匿型ePROシステム「ASAHI」を開発し、その有効性を確認しました。本研究成果は、2026年6月12日に国際学術誌「npj Digital Medicine」に掲載されました。
研究概要:患者のプライバシー保護と社会的望ましさバイアスへの対応
対象患者数:IBD患者322人(千葉県内15施設)
実施期間:2022年12月~2024年3月
論文掲載日:2026年6月12日
掲載誌:npj Digital Medicine
論文URL:https://doi.org/10.1038/s41746-026-02814-z
患者の「率直な声」を医療に活かす秘匿型ePROシステム
炎症性腸疾患(IBD)のような慢性疾患では、患者が自身の症状や生活状況について、他者に知られることへの不安や医師への遠慮から、必要な情報が十分に収集されないという課題がありました。この「診察室に生まれる遠慮の壁」を取り除くため、千葉大学医学部附属病院の消化器内科とNTTドコモビジネス株式会社は、秘密計算技術とePRO(電子患者報告アウトカム)を組み合わせた秘匿型ePROシステム「ASAHI」を開発しました。これにより、患者はプライバシーが守られた環境で、より率直に自身の状態を報告することが可能になります。
「ASAHI」システムによる患者の実態把握
2022年12月から2024年3月にかけて、千葉県内の15施設でIBD患者322人を対象とした観察研究が実施されました。その結果、患者の約6割が「ASAHI」システムにより「答えやすかった」と回答し、秘匿性による回答しやすさが示唆されました。具体的には、便意切迫感といった医師に伝えるべき症状について、実際に伝えていたのは7割弱にとどまり、また服薬状況においても約3割の患者で自己申告と実際の服薬状況に乖離が見られました。これらの結果は、従来の方法では捉えきれなかった患者の実態を、本システムが収集できる可能性を示しています。
今後の展望と技術の応用可能性
本研究を主導した千葉大学医学部附属病院 消化器内科の太田佑樹医師は、「秘密計算により初めて『診察室に生まれる遠慮の壁』を取り除くことができた」と述べ、IBD以外の慢性疾患への応用や、AI活用、個別化医療への展開に期待を寄せています。NTTドコモビジネス株式会社スマートヘルスケア推進室の櫻井陽一氏は、本研究がトップジャーナルに掲載されたことを喜び、この技術の組み合わせが医学・医療のみならず、あらゆる分野に広がることを期待するとコメントしています。
参考情報
本研究で開発された秘匿型ePROシステムは、従来のPRO方式とは異なり、患者データを医療者やシステム運用者から参照できないように、秘密計算技術を用いてデータを暗号化したまま統計解析を行います。これにより、患者データの秘匿性を高いレベルで保つことが可能です。
なお、「NTTコミュニケーションズ株式会社」は2025年7月1日に社名を「NTTドコモビジネス株式会社」に変更しました。
関連リンク
https://www.ntt.com/about-us/nttdocomobusiness.html
まとめ
千葉大学医学部附属病院とNTTドコモビジネス株式会社が共同開発した秘匿型ePROシステム「ASAHI」は、患者のプライバシーを保護しつつ、慢性疾患患者の率直な自己申告を促すことで、医療現場での実態把握と治療への活用を目指す画期的なシステムです。本研究は、その有効性を国際学術誌で示し、今後の医療DXの進展に貢献することが期待されます。

