
TimeTreeとOshicocoの代表が語る「最新推し活トレンド」
「推し活」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。アイドルのコンサートに足を運ぶこと、アニメのキャラクターグッズを集めること、あるいは応援するスポーツチームの試合結果に一喜一憂することだろうか。かつては一部の若者の文化と見なされがちだった「推し活」は、今や世代や性別を超えて広がる巨大なマーケットとなっている。
推し活関連の企画・マーケティングを手掛ける株式会社Oshicocoの代表、多田夏帆氏によると、日本の推し活人口は約1400万人、その市場規模はアルコール市場に匹敵する約3.5兆円にも上るという。年間平均で約25万円を費やすというデータもあり、日々の生活に欠かせない活動となっていることがうかがえる。
そして、この推し活を支える重要なツールとなっているのが、カレンダーシェアアプリ「TimeTree」だ。家族や恋人との予定共有ツールとして普及した同アプリだが、近年では「推し活仲間」とライブやイベントのスケジュールを共有するためにも活用が広がっている。
今回、TimeTreeの深川泰斗社長とOshicocoの多田夏帆代表が、約3000名へのアンケートと累計120億超の予定データから読み解く「最新推し活トレンド」について語った。シニア層にも広がる推し活の実態とは。その対談の模様をお届けする。

深川泰⽃(ふかがわ やすと)
株式会社TimeTree 代表取締役社⻑ / 最⾼経営責任者 CEO
九州⼤学⼤学院で社会学・⽂化⼈類学を学び、2006年にヤフー株式会社へ⼊社。ソーシャル・コミュニケーションサービスの企画を担当。2012年にヤフーからカカオジャパンへ出向後、2014年に株式会社JUBILEE WORKS(現 株式会社TimeTree)を共同設⽴。2015年3⽉にカレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリース。

多⽥夏帆(ただ なつほ)
株式会社Oshicoco 代表取締役
早稲⽥⼤学⽂化構想学部卒業後、「推し活」に関する企業のマーケティング⽀援とグッズ販売を⾏うOshicocoを創業。創業2年でSNSフォロワー10万⼈を獲得。「推し活」のマーケティング⽀援・グッズ販売、エンタメ企業の企画コンサル、推し活⽂化の解説者としても多数のメディアに出演。
推し活がもたらすポジティブな変化、世代で異なる「効能」
深川さん まず、推し活をするようになっての変化を尋ねたアンケート結果が非常に興味深かったです。10代・20代の若年層では「気持ちが前向きになった」「人生の目標ができた」といった精神面でのプラス効果を実感している声が多いのに対し、シニア層では「健康に気をつけるようになった」という回答が目立ちました。
多田さん そうですね。皆さん「推しがいることで日常生活が豊かになる」という点は共通しているのだと思います。その結果として、若い世代は気持ちの面に、上の世代は具体的な行動の変化として健康にポジティブな影響が出ているのではないでしょうか。「コンサートで3時間立ちっぱなしでいられるように体力をつけなきゃ」と考える方もいらっしゃいますから。
「推し縁」でつながる人々。家族内コミュニケーションも活発に
深川さん TimeTreeはもともと家族や恋人との予定共有から広がりましたが、近年は趣味や推し活の仲間で使う「推し縁」とでも言うべき利用が増えています。アンケートでも、推し活を一緒にする相手として「1人」が最多ではあるものの、「親・祖父母」や「子・孫」といった家族を挙げる方も約3割と、かなり多い結果でした。
多田さん はい。「おばあちゃんの代から宝塚が好き」「おじいちゃんの影響で阪神ファン」といった上の世代から下の世代への継承もあれば、逆にお子さんがハマったVTuberを親御さんも一緒に見るようになって、家族でコンサートに行くという双方向の流れがあります。推し活は、世代を超えたコミュニケーションのハブになっているんです。
若者は多様化、シニアは「スポーツ」。推しのジャンルに見る世代観
深川さん 推しているジャンルにも、はっきりとした世代差が見られました。10代は漫画・アニメからVTuber、ボーカロイドまで非常に多様化しています。一方でシニア層、特に70代になると半数近くが「スポーツ」と回答しており、突出しています。
多田さん 若年層はTikTokやYouTubeなどで、まだあまり知られていないような対象も含めて、自分の好きなものを自分で見つける文化が根付いていますね。一方で、シニア層にとってスポーツは、テレビ中継などで日常的に触れる機会が多いですし、時間に余裕ができて観戦にじっくりハマれるという側面もあるのかもしれません。
TimeTreeの予定データが示す、世代ごとの「現場」の違い
深川さん 実際にTimeTreeに登録された予定のキーワードを見ると、世代ごとの活動スタイルの違いが浮かび上がってきます。若年層は「ライブ」という予定がコロナ禍を経て急回復しているのに対し、シニア層、特に60代・70代では「ディナーショー」や「コンサート」という言葉が多く使われていました。
多田さん 言葉のイメージ通り、スタンディングで盛り上がるのが「ライブ」、着席でじっくり鑑賞するのが「コンサート」という使い分けがあるのでしょうね。推しに会いに行くという行動は同じでも、その楽しみ方が世代によって少しずつ異なっているのが面白いデータだと思います。
全世代を虜にするSnow Manと、シニア層の心を掴む大谷翔平
深川さん 推しの対象を具体的に尋ねた自由回答では、Snow Manが年代を問わず1位という結果でした。TimeTreeの予定データを見ても、デビュー当初は10代の登録が中心だったのが、年々上の世代にもファン層が拡大している様子が手に取るようにわかります。
多田さん これは本当に面白いデータですね。予定にしっかり入れる、というのはかなり熱心なファンである証拠ですから。また、シニア層ではやはりスポーツが強く、阪神タイガースや大谷翔平選手が上位にランクインしています。特に大谷選手がドジャースに移籍してからは、「ドジャース」というキーワードの予定登録が全世代で急増しており、選手個人をきっかけにチーム全体を応援するようになった様子がうかがえます。
対談では、世代を超えてそれぞれのスタイルで楽しまれる、奥深い推し活の世界が浮き彫りになった。では、このムーブメントは今後どのように変化していくのだろうか。この点について、多田氏は「推しの対象のさらなる多様化」を挙げる。
「今後はアイドルやアニメだけでなく、特定の酒蔵や競走馬、テーマパークのキャラクターといった、人以外の“モノ”や“コト”を推す動きもさらに広がるでしょう。しかし、その対象を追いかけて遠征したり、情報を集めて仲間と語り合ったりという『活動』の本質は変わりません」
最後に、多田氏は推し活において大切な心構えを語った。
「アンケートでは『お金を使いすぎてしまう』という悩みも聞かれますが、お金をかけることだけが推し活ではありません。推しについて家族と語らったり、SNSで発信したり、自分でグッズを作ったり。大切なのは、自分の好きなものにどれだけ時間と情熱を注げるか。その気持ちこそが、日々の生活にハリと潤いを与えてくれるのです」
無理のない範囲で、自分なりのスタイルで楽しむ。そうした意識が広がることで、推し活は今後も、あらゆる世代のウェルビーイングに貢献する豊かな文化として社会に根付いていくだろう。
TimeTree https://timetreeapp.com/intl/ja Oshicoco https://oshicoco.co.jp/ |