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帝国ホテルが挑む「競争」から「共創」への転換点。行政×生産者×料理人で紡ぐ、持続可能な食の未来

2026年1月27日(火)、株式会社帝国ホテルは「第4回 食のサステナビリティフォーラム」を帝国ホテル 東京 本館中2階 光の間にて開催した。

本フォーラムは、帝国ホテル 第3代総料理長・杉本 雄氏が掲げる「おいしく社会を変える」をテーマに、食の課題解決に向けたアクションとビジョンを発信する場として継続的に行われているものだ。

今回は「行政×生産者×料理人 3者が紡ぐ、持続可能な食の未来」と題し、ホテルの枠を超えた多角的な視点での議論が展開された。杉本総料理長による活動報告に加え、日本サステイナブル・レストラン協会や小豆島の生産者をゲストに迎えたクロストークなど、熱気あふれる会場の様子をレポートする。

「食材の一生」に向き合い、人を育てる。帝国ホテルの進化と新たな決意

フォーラムの冒頭、登壇したのは帝国ホテル 常務執行役員 総料理長の杉本 雄氏。「伝統は常に革新と共にある」という企業理念のもと、2019年の東京料理長就任以来、ラグジュアリーとサステナビリティの両立に挑み続けてきた人物だ。

杉本氏はまず、過去3回のフォーラムを振り返り、その進化の過程を説明。第1回では「ラグジュアリー×サステナビリティ」を掲げ、サンドイッチのパンの耳から生まれた「W・Eブレッド」や、廃棄バナナを活用した「Le Bâton B」など、食材ロスをなくす商品開発を紹介。続く第2回では、野菜の皮や未利用魚を活用する「サーキュラー・エコノミー」や、ヴィーガン料理への対応といった多様性の実現について触れた。

そして第3回で焦点が当てられたのは「人」だ。「人が原点」とし、料理人を目指す若者が抱く「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージや離職率の高さに正面から向き合った。若手スタッフとテーブルを囲む「ラウンドテーブル」や、意見箱「キッチンボイス」の導入など、心理的安全性を高め、個の力を引き出す組織づくりについて語った。


「食材が生産され、我々の手元に届くまでの『一生』を100とすると、料理人が手を加えるのは最後の数パーセントに過ぎません。それなのに料理人ばかりに光が当たるのは違うのではないか」

そう語る杉本氏が2025年の活動として報告したのは、生産現場への回帰と、より広域な連携だ。大阪・関西万博フランス館での「味覚の授業」®や、京都・石川へのメディアトリップを実施。生産者の想いやストーリーを料理に乗せて届けることの重要性を再確認したという。

そして今回、新たな一歩として発表されたのが「シェフズ・サステナビリティ・マニフェスト」への賛同である。これは料理人が自然や生産者への敬意を持ち、持続可能な食文化を次世代へ継ぐための指針だ。杉本氏は「行政、生産者、そして我々料理人が横でつながることで、より大きなうねりを生み出したい」と力強く語り、プレゼンテーションを締めくくった。

杉本 雄(すぎもと ゆう)氏
株式会社帝国ホテル 常務執行役員 第3代総料理長。1999年帝国ホテル入社。2004年に渡仏し、アラン・デュカス氏らに師事。名門ホテル「ル・ムーリス」でメインダイニングの責任者を務めるなどフランス、イギリスで13年間研鑽を積む。2017年に帝国ホテル再入社、2019年4月より東京料理長、2025年4月より現職。「おいしく社会を変える」をモットーに、食を通じた社会課題解決に取り組む。


行政×生産者×料理人。立場の異なる3者が語る「食の未来」

続いて行われたクロストークでは、行政・団体、生産者、そして料理人という異なる立場のゲストが登壇。「それぞれの立場から考えるサステナブルな食」をテーマに意見が交わされた。ゲストは以下の4名。

下田屋 毅(しもたや たけし)氏:一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事。飲食店が無理なくサステナビリティに取り組める仕組み作りを行う。

杉浦 仁志(すぎうら ひとし)氏:同協会 プロジェクトアドバイザー。「ソーシャル・フード・ガストロノミー」を提唱するシェフ。

柳生 忠勝(やぎゅう ただかつ)氏:小豆島ヘルシーランド株式会社 取締役副社長。「オリーヴ兄弟(弟)」として、世界中の産地を巡り小豆島のオリーブ事業を発展させている。

柳生 智英子(やぎゅう ちえこ)氏:小豆島ヘルシーランド株式会社 広報 ウェルネスクリエイター。オリーブをテーマにしたウェルネス体験や「千年オリーブテラス for your wellness」のブランディング・企画開発を担当。

トークの前半では、下田屋氏と杉浦氏が「シェフズ・サステナビリティ・マニフェスト」の背景を解説。
下田屋氏は「日本の食文化や自然との共生を深く理解した上で、グローバルな基準を取り入れた日本独自の指針が必要だった」と語る。杉浦氏もまた「シェフは生産者と消費者をつなぐハブ。このマニフェストの実践者を増やすことが、美しい社会の実現につながる」と、その意義を強調した。

後半は、生産者である柳生夫妻の取り組みに焦点が当てられた。
忠勝氏は「千年続くオリーブの森を作りたい」という兄の想いを具現化すべく、オリーブの栽培はもちろん、オリーブと共に人々の営みがあり続けるために、空き家を再生して「妖怪美術館」を作ったりと、島内での循環型事業を展開していることを紹介。

一方、智英子氏は生産者としての課題を吐露した。「小豆島のオリーブオイルは手摘みで、収穫から搾油まで24時間以内に行う希少なもの。しかし、そのストーリーや価値、価格の理由を伝える難しさを感じていました」。その壁を壊したのが、杉本総料理長の来訪だったという。

「杉本シェフは搾りたてのオイルを飲んで『これは料理に合う、こう使えばお客様が喜ぶ』と、オイルの美味しさの『その先』を描いてくれました。生産者とお客様が一気につながった瞬間でした」(智英子氏)

杉本氏も当時の衝撃を振り返り、「オリーブオイルというより、新鮮な青いジュースを飲んでいる感覚。主役になれる個性を持っていた」と絶賛。この出会いをきっかけに、杉本氏監修による特別な小豆島産オリジナルブレンドオイルが作成され、2026年3月に開催される料理イベント「サンセリテ」でお披露目されることも明かされた。

「競争」から「共創」へ。食を通じて拓く新たな時代

クロストークの終盤、これからのビジョンについて問われた各登壇者。下田屋氏は「賛同したシェフたちが日本地図上で可視化され、面としてつながっていく未来」を、忠勝氏は「生産者や加工者が一体となった、地元の食材が揃う『イケてるスーパー(リアル店舗)』を小豆島に作りたい」と夢を語った。

最後に杉本総料理長は、消費者意識の変化について触れ、フォーラムを次のように総括した。

「採用活動をしていても、サステナブルな取り組みを理由に帝国ホテルを選ぶ学生が顕著に増えています。これは消費者のマインドが変化している証拠。これまでは『自社だけが良ければいい』という競争でしたが、これからは共に走るという意味での『共創』に転換する時期。行政、生産者、料理人が手を取り合い、答え合わせができた実りある会でした」

ラグジュアリーホテルとしての品格を保ちながら、泥臭く生産現場へ足を運び、組織のあり方さえも変革していく帝国ホテル。
「おいしく社会を変える」という杉本総料理長の言葉は、単なるスローガンではなく、確かな手触りを持って社会に浸透し始めている。2026年、食の未来を紡ぐ彼らの挑戦から目が離せない。

帝国ホテル 東京
東京都千代田区内幸町1-1-1
TEL.03-3504-1111(代表)
imperialhotel.co.jp/j/tokyo/index.html

 

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