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「機能がいいのは当たり前」カリスマ作業療法士・野村寿子が提案する、暮らしを彩る“使いたくなる”福祉機器

今年5月に公開したインタビュー記事で、作業療法士としての豊富な経験と独自の視点から福祉用具開発への情熱を語ってくれた野村寿子さん。そんな彼女が代表を務める株式会社ピーエーエスが、10月8日から東京ビッグサイトでスタートした「第51回 国際福祉機器展 H.C.R. 2024」に出展している。

これまでにも数々のアイデアを形にし、多くの利用者の暮らしを支えてきた野村さん。その新作はどのようなものだろうか。期待を胸にブースを訪れると、多くの来場者がひっきりなしに足を止め、熱心にスタッフの説明に耳を傾けていた。やはり、カリスマ作業療法士が手掛ける製品への注目度は高いようだ。

特に印象的だったのは、ピーエーエスのブースに車椅子に乗った女の子たちの姿が目立ったことだ。彼女たちの笑顔の先に、一体どのような製品があるのだろうか。野村さん本人に解説してもらった。

「先日、ドイツの展示会に行ってきたんです。そこではオフロードで使えるようなごついタイヤのモビリティや、階段を上がれる電動車椅子、重心移動だけで動くセグウェイのようなものまで、素晴らしい機能を持つ製品がたくさんありました。でも、唯一なかったのが『おしゃれ』という視点だったんです。

そこで今回、私たちはフィンランドのテキスタイルブランド『フィンレイソン』と契約し、彼らの素敵な柄で車椅子のシートを作ることにしました。私たちが目指すのは、機能性がいいのは当たり前で、見た人も乗る人も『使いたくなる』『乗っていて楽しくなる』ような製品です。

誰かから『大変ね』とか『かわいそうね』と言われるのではなく、『〇〇さんが乗ってたあのクッション、すごくかわいかったよ』と話題になる。そんな、暮らしの当たり前の道具として、ポジティブで楽しいものであってほしいんです」

車いすのイメージを刷新する、北欧デザインの“着替える”クッション

まず目に飛び込んできたのは、ゾウのモチーフが愛らしい「エレファンティ」など、カラフルな北欧デザインの車椅子クッションだ。

「これがフィンレイソンとのコラボレーション第1弾です。ハード面、つまり車椅子本体の進化はこれからの日本の課題ですが、まずはソフトの部分でみんなが楽しくなれるように、という思いを込めました。今後は、私たちが得意とするオーダーメイドの姿勢保持装置にも、このデザインを活用していく予定です」

機能一辺倒だった福祉用具の世界に、ファッションのように「選ぶ楽しさ」という新しい価値をもたらす。ブースに女の子たちが集まっていた理由も、この“かわいさ”にあったようだ。

夏も冬も快適に。空調服®とのコラボで実現した“持ち運べる快適空間”

続いて紹介してくれたのは、日本の厳しい夏と冬を乗り切るためのアイデアグッズだ。

「車椅子の方は地面からの距離が近く、簡単に日陰に入れないため、熱中症対策は長年の課題でした。これは、接触冷感シートと、工事現場などでおなじみの『空調服®』さんのファンを組み合わせたクッションです。ファンが空気を取り込み、背中から排出することで汗を蒸発させ、気化熱で体を涼しく保ちます。専用バッテリーで動くので、災害時にも役立ちますよ」

そして、冬の寒さ対策として開発されたのが、電熱シートを内蔵したヒートケットだ。


「コンセプトは『こたつをまとって出かけよう』です。足元をすっぽり覆い、肩まで温かく包み込むことができます。低温やけどを起こさないよう、温かい空気をまとうような優しい温かさにこだわりました。冬のイルミネーションやスポーツ観戦など、これさえあれば寒い日のお出かけも億劫になりません。家では敷布団の上に敷いたり、はんてんのように羽織ったりできる『一人こたつ』にもなります。夏のクッションとバッテリーが共通で使えるのもポイントです」

両手がふさがらない快適さ。介護する側もされる側もハッピーに

ユニークな製品はまだある。自転車用の傘ホルダー「さすべえ」とコラボした、車椅子専用の傘ホルダーだ。

「車椅子用に角度を細かく変えられるよう、金具を独自に開発しました。自走する方の邪魔にならず、傘が体の中心に来るように工夫しています。これを少し伸ばせば、介助者の方も一緒に入れるんです。どちらか一方が我慢するのではなく、両方が雨や日差しから守られる。そうすれば、介護ももっとポジティブなものになりますよね」

いざという時も、普段の学習も。子どもたちの“安心”と“集中”を両立

子ども向けの製品も充実。中でも注目は、普段はクッションとして使い、いざという時には防災頭巾になるユニークな製品だ。

「これは、箕面市の市長からのご要望がきっかけで生まれました。防災頭巾というとネガティブなイメージがありますが、『これに座っていると姿勢が良くなって勉強に集中できる』というポジティブな価値を付加することで、普段使いしながら防災にも備えられると考えたんです。実際にこのクッションを使うと、子どもたちの姿勢が自然と整い、認知能力が向上するという研究結果も出ています」

「去年、初めてHCRに出展した際は、新素材の樹脂を使ったクッションを発表しました。それが1年経って、フィンレイソンとのコラボという『おしゃれ』な形に進化させることができました。こうして少しずつ考えを深め、より皆さんのお役に立てるものを発表できるのは、本当に嬉しいことです。

私はいつも、誰かのためにというよりは『自分だったらこういうものが使いたい』という基準で製品を開発しています。だから、ここに置いてある製品のほとんどは、私自身が家で使っているものばかり。このブースは、いわば“ひさこのお部屋”みたいなものなんです(笑)。だからこそ、ご自身の体験として『こう使うと便利ですよ』とリアルな提案ができますし、来場された方とのコミュニケーションの中で『こんな使い方もあるんだ』と、さらに新しい可能性が見えてくる。それが何よりの喜びですね」

株式会社ピーエーエス
https://www.pas21.com/