
祇園のシンボル、弥栄会館が紡ぐ新たな物語。「帝国ホテル 京都」が魅せる伝統と革新の極致
photo Masatomo Moriyama
2026年3月5日(木)、京都・祇園の地に「帝国ホテル 京都」が幕を開けた。帝国ホテルとして30年ぶり、4軒目の新規ホテル。その最大の特徴は、昭和11年に竣工し、祇園のシンボルとして愛されてきた「弥栄(やさか)会館」の一部を保存活用した点にある。ラグジュアリーな体験、そして帝国ホテルならではの最高の「寛ぎ」を提供する、その全貌を解き明かす。
歴史の記憶を未来へ繋ぐ「弥栄会館」の再生
弥栄会館。1936年(昭和11年)、劇場建築の名手・木村得三郎(大林組)の設計によって誕生したこの建物は、かつて演劇やダンスホール、映画館として多岐にわたる興行に利用されてきた。地域の人々に長く親しまれてきたランドマークであり、2001年には国の登録有形文化財にも指定。しかし、老朽化と耐震性の問題から、その大部分が使用されなくなっていた。
今回のプロジェクトは、その景観を保存しながら未来へ繋ぐ挑戦。南西面の外壁を保存し、本来なら高さ12メートル制限のある地区で、特例許可により元来の31.5メートルという高さを維持。祇園の空に再び、あの尖塔が映えた。

解体作業の様子(提供 株式会社大林組)
「生け捕り」の執念。90年前のタイルとテラコッタを再利用
外観の再生において語り草となるのが、タイルの「生け捕り」だ。損傷を与えないよう一枚一枚丁寧に取り外し、洗浄して貼り直す。その数、約1万6000枚。外壁のレリーフ状のテラコッタ(装飾陶器)も、状態の良いものは保存し、悪いものは3Dスキャンで復元。驚くべきは、このテラコッタがかつて帝国ホテル2代目本館(ライト館)を手掛けた常滑(愛知県)の職人たちによるものだったという事実。時空を超えて、帝国ホテルの物語は再び繋がった。

生け捕りしたタイル(提供 株式会社大林組)

テラコッタを3Dスキャンする様子(提供 株式会社大林組)
設計を担当したのは、株式会社新素材研究所の代表・榊󠄀田倫之氏。「オールド・イズ・ニュー(古いものこそが新しい)」を掲げ、歴史ある素材に新たな命を吹き込んだ。

株式会社新素材研究所 代表の榊󠄀田倫之氏(写真は昨年6月に開催された記者発表会時に撮影)
劇場建築の記憶が息づくエントランス
車寄せを見上げれば、緻密な「麻の葉文様」の天井が目を引く。これは弥栄会館時代のホールの緞帳(どんちょう)上部にあったデザインをアレンジしたもの。魔除けの願いが込められている。

「麻の葉文様」をあしらった車寄せの天井
柱にはイタリア産の赤色大理石「ロッソ・ブロッカテロ」。当時と同じ素材を新たにイタリアから輸入した。正面に鎮座する看板は、奈良・吉野の「白馬寺 水分(みくまり)神社」に自生していた樹齢約千年のケヤキの一枚板。老子製作所が手掛けたライオンマークの鋳物と、螺鈿(らでん)細工で施されたホテル名が、重厚な気品を漂わせる。

赤色大理石「ロッソ・ブロッカテロ」を使用した柱

樹齢約千年のケヤキの一枚板を使用したロゴ看板
photo Masatomo Moriyama
水平方向の広がりに身を委ねる、宿泊者ラウンジ

1階の宿泊者ラウンジは、天井高の制限を逆手に取り、「空間の水平方向の広がり」を意識。和風の「駆け込み天井」の傾斜が窓外へと続き、内外の境界を曖昧にする。

床や柱には、サンゴや貝の化石が顔を出す沖永良部島産の「田皆石(たみないし)」。壁には現代美術作家・杉本博司氏による「松竹図襖絵」。2025年元旦に撮影された、静謐な「海景」シリーズが、訪れる者に安らぎのひとときを約束する。
静謐なる和と、歌舞練場を望む特等席
全55室の客室は、グレードごとに異なる表情を持つ。新築された北棟は、帝国ホテル初の「和の極致」をテーマに祇園の町並みを意識したデザインが施された。
| 北棟1F/グランドプレミア 4室 北棟2F/プレミア 3室、グランドプレミア 1室 |

注目は「北棟グランドプレミア」。帝国ホテル初の畳敷きの客室。栗の木に「名栗(なぐり)加工」を施した床の感触が心地よい。取材陣に対し、あえて窓からの撮影を制限しているのは、祇園の生活を守るため。「不誠実なことはしない」というホテルの覚悟が、そこにある。
弥栄会館の一部を保存・改築する本棟では、フロアごとに多様な客室が並ぶ。
| 本棟3F/プレミア 5室、グランドプレミア 7室、ジュニアスイート 1室、スイート 1室、弥栄スイート 1室 本棟4F/プレミア 6室、グランドプレミア 7室、ジュニアスイート 1室、スイート 1室 本棟5F/プレミア 5室、グランドプレミア 6室、ジュニアスイート 1室、スイート 1室 本棟6F/ジュニアスイート 2室、インペリアルスイート 1室 |

山形緞通の「柳文様」の絨毯が足元を彩る「弥栄スイート」。窓の外には銅板瓦屋根が間近に迫る。室内には弥栄会館の食堂にあった「千鳥」のアートワークも。祇園の風情を最も濃密に感じる部屋。

歌舞練場の大屋根のうねりが目の前に広がる「ヘリテージジュニアスイート」。ボタンひとつでカーテンが開くと、劇的なパノラマが飛び込んでくる。演出もまた、最高級。

秋田杉など、館内で使い分けられた5種の名木を贅沢に使用した「グランドプレミアバルコニー付」。バルコニーからは祇園の町並みを見渡す贅沢が味わえる。

photo Masatomo Moriyama
一泊300万円(料金変動制)の「インペリアルスイート」。最上位のこの部屋のテラスには、かつて会館の階段室だった場所を改装した「ガゼボ(東屋)」が佇む。八坂神社や平安神宮を望む、まさに「寛ぎの舞台」の頂点。
洞窟のような静寂。地下のウェルネスエリア
B1Fに降りれば、そこは別世界。岡山県産「万成石」のカウンターがお出迎え。プールサイドには、かつて弥栄会館の外壁に使われていた「北木石(きたぎいし)」が。あえて割ったままの荒々しい表情で配置され、まるで洞窟の中で泳いでいるかのような幻想的な雰囲気を醸し出す。

歴史を「飲む」贅沢。オールドインペリアルバー

photo Masatomo Moriyama
最上階の本棟7Fに構えるバー。カウンターは「神代(じんだい)ケヤキ」。数百年地中に埋もれていた銘木だ。ここだけでしか味わえないのが、シグネチャーカクテル「マウント比叡」。伝統の「マウント フジ」をベースに、抹茶や水尾の柚子、国産ジンで再構築された一杯。京都の夜に酔いしれる。

中央が「マウント比叡」
宿泊者だけの特権、屋上「ザ ルーフトップ」

photo Masatomo Moriyama
五山の送り火や清水寺、比叡山までをも見渡す。帝国ホテルの会長も務めた大倉喜八郎ゆかりの「祇園閣」が間近。限定メニュー「弥栄バーガー」の月見仕立ては、ここでしか出会えない味だ。
素材とライブ感の共演 2階レストラン

photo Masatomo Moriyama
帝国ホテル初のカウンターフレンチ フランス料理「練」。扉は弥栄会館3階の搬入口を再利用したもの。今城料理長自ら大原の朝市に足を運び、農家と対話して選ぶ食材。目の前で仕上げられる料理の音と香りに、五感が研ぎ澄まされる。

photo Masatomo Moriyama
かつて会館の貴賓室を飾った「芭蕉」の銅板レリーフが、新たな場所でゲストを見守るオールデイダイニング「弥栄」。絨毯は「秋の実り」をイメージした稲穂の黄金色。

帝国ホテル 京都は、単なる宿泊施設ではない。それは、90年の歴史を呼吸させ、現代の感性で磨き上げた「文化の継承地」だ。「次は、寛ぎの舞台へ」。祇園のシンボルは、いま、帝国ホテルの誇りとともに新たな100年を歩み始めた。
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