〈旅ルポ〉アクティビティやグルメが満載! 週末は、ちょっと足を延ばして木曽川へ

ちょっと話は唐突だが、岐阜県と聞いて首都圏に住む人は何を思い浮かべるだろうか。きっと白川郷、下呂温泉、養老の滝といった観光名所や、飛騨牛、朴葉味噌などのグルメなどが挙げられるのでは。もちろん、数ある岐阜県の名所・名物の中でもそれらはトップクラスの知名度を誇るものなので、質問への回答としては100点満点なのは間違いない。ところが記者にとって、それらを差し置いても一番最初に思い浮かべる岐阜のイメージは、木曽川だ。

というのも、記者が尊敬してやまない先輩が30年近く編集長を務める渓流釣り雑誌『Gijie』に、やたらと木曽川が登場するから。木曽川は長野県から岐阜県・愛知県・三重県を経て伊勢湾に注ぐ一級河川だが、誌面には木曽川の本流のみならず、付知川(つけちがわ)など、岐阜県内を流れる木曽川水系の川がたくさん登場する。

釣りに興味がない人にとっては「何のこっちゃ?」かもしれないが、大丈夫。こんなに熱く木曽川について語っている記者自身も釣りはやらない。理由は魚のヒレやフック(釣り針)が指に刺さったら、痛くてギターが弾けなくなるから。一応これでも、South65編集長の業務の傍らでギター教室の校長を兼務するギタリストなので。だがそんな記者でも、Gijieの誌面を眺めていると「ああ、ここでこんな魚が釣れるんだな。でもそんなことより、ここの景色最高だな。釣りはしなくてもいいけど、この景色は見に行きたいな」なんて思うこともしばしば。

そんな思いを抱き続けていた記者に今回、大きなチャンスが舞い込んできた。なんと、「木曽川で川下りをしてみませんか?」と岐阜県庁からプレスツアーのお誘いがあったのだ。「でも、俺カナヅチなんだけど」と一瞬尻込みしたが、「大丈夫。ウェットスーツやライフジャケットは準備するし、インストラクターも一緒に乗り込むから安心して。海パンだけ持ってくればいいから」と、うまく丸め込まれるカタチで参加することに。かくして、10月後半の土曜日、別の取材を終えたその足で一路、美濃太田駅へ。

美濃太田駅そばの居酒屋で、岐阜のソウルフード「鶏ちゃん」に舌鼓

実はこのプレスツアーの名称は、題して『木曽川の自然と歴史のサイクルツーリズム』。そう、本来の目的は木曽川沿いを自転車で走るというものだ。だが前述したように都内で別の取材が入っていた記者は、途中からの合流ということで初日のサイクリングには参加できなかった。当日は天気もよかったし、「参加できなくて残念!」なんて思っていたが、現地に到着して他の参加者に会った瞬間、そんな考えは吹き飛んだ。みんな自前のサイクリングウェアに身を包んだガチのサイクリストで、なんと初日は朝9時から夕方17時まで46.2kmの道のりを走ったのだとか。サイクリングウェアなんて持ってないし、普段は自宅から駅まで電動ママチャリで移動するくらいの記者にとって、そんな輩と一緒に並走するなんて無理無理。血圧も高いし、プレスツアーの途中でポックリ逝っちゃったら企画した県庁にも迷惑がかかってしまう。参加できなくて本当によかったと胸を撫で下ろした。

まぁ、それはそれ、と気を取り直して、主催者・参加者一行とともに向かったのは、美濃太田駅近くの居酒屋『岐阜けいちゃん 鳥松』。ここのオススメは、店名にもある岐阜県のソウルフード「鶏ちゃん」。味噌や醤油で味付けした鶏肉と野菜を炒めたシンプルな郷土料理だが、これが実に美味。この地方では普通に家庭で食べられるポピュラーなメニューで、使う鶏肉の部位やタレも家庭によって異なり、各家庭に秘伝の味があるとか。

岐阜けいちゃん 鳥松
住所/岐阜県美濃加茂市太田町1764-1
電話/090-3938-8884

江戸時代の面影を残す中山道の宿場町・太田宿

翌朝、ホテルでの朝食を終えて腹ごなしがてら向かったのは中山道の宿場町・太田宿。日本橋からおよそ九十九里(約385km)の位置にあり、中山道六十九次では江戸から数えて51番目の宿場町となる太田宿は、飛騨へ向かう「飛騨街道」、関・郡上へ向かう「関街道」への分岐点で、並行して木曽川が流れていることもあり、交通・物流の要衝として栄えたという。

天保14年(1843)に記された『中山道宿村大概帳』には「旅籠屋弐拾。内大三軒、中拾壱軒、小六軒」と、主に一般庶民や私用の武士たちが宿泊した旅籠屋は20軒あったことが記録されており、写真の登録有形文化財「旧小松屋(吉田家)」はその中の一軒。今も江戸時代の面影を残した状態で残されている。ここからすぐの場所にある木曽川の堤防では、早朝にもかかわらず多くの地元の人たちが散歩を楽しんでいた。

問合せ先/美濃加茂市観光協会(美濃加茂市役所 商工観光課内)
電話/0574-25-2111(内線 251)

大自然に囲まれた木曽川本流で川下り

太田宿を後にし、向かったのは木曽川と森に囲まれた公園『リバーポートパーク 美濃加茂』。〈まちなかアウトドア〉がコンセプトのリバーポートパーク 美濃加茂では、従来の公園の過ごし方に加えて「手ぶらBBQ 」「CAFE」、3歳から参加できる「ラフティング」「SUP」などのアウトドアレジャーも楽しめる。さあ、いよいよ待望の川下りのスタートだ。ウェットスーツに身を包んでライフジャケットを装着し、ヘルメットをかぶればスタンバイOK。だがこの時、何とも言い難い違和感が。はたして、その違和感の正体とは……。

ゴムボートに乗り込み、進水開始。ちなみに手前の3人は、前日に自転車で46.2kmの道のりを走り切った面々。驚くべきは、その体力。まるで何事もなかったように振る舞う様子を眺めながら、「全然平気そうだけど、筋肉痛になってないのかな? 一体どれだけ鍛えてるの? マジで鉄人かよ」と、驚きを通り越してあきれかえる。

さすが本流だけあって、川幅が広い木曽川。のんびりとパドルを漕ぎながら、川面を滑るように移動していく。比べるのもおかしいが、同じ一級河川でもウチの近くを流れる多摩川とは見える景色がまったく違う。川岸には水の力で浸食されたであろう巨岩がゴロゴロと転がり、自然の力をまざまざと見せつけられた。

このまま穏やかな川の流れに乗っていたら眠ってしまうかも……なんて心配していたら、いつの間にかボートは激しくうねる急流の中へ。水飛沫が顔に当たるどころの話ではなく、頭のてっぺんからバケツの水をかけられているかのように全身ビチョビチョだ。水に濡れた顔を手のひらで拭って顔を上げると、横に座っていた小柄な女性参加者が大きな波の衝撃で体勢を崩して川に投げ出されそうになっていた。咄嗟に腰に腕をまわしてホールドする。普段の生活の中で、たとえば電車やバスの中で車内が揺れて倒れそうな人がいたとしても、セクハラや痴漢と思われたらイヤなので助けないようにしているのだが、さすがにこの時は無意識のうちにカラダが反応したようだ。

なんとか1時間半の川下りを終え、ウェットスーツを脱ぐために更衣室へ。と、ここで最初に抱いていた違和感の正体が判明する。パンツがビショビショなのだ。隣で着替えていた男性参加者にその旨を伝えると、「ウェットスーツって水を通すからね。あれ? 海パンに履き替えてなかったの?」と言われ、ハッと気がついた。そう、海パンではなく、普通のパンツのままウェットスーツを着ていたのだ。でも、着替えのパンツはクルマに積んだカバンの中。やむなく、ノーパンのままズボンを履くことに。みなさん、ウェットスーツは水を通します。くれぐれも海パンに履き替えるのを忘れずに。

リバーポートパーク 美濃加茂
住所/岐阜県美濃加茂市御門町2-6-6
電話/0574-49-6717

岐阜県民の週末恒例行事はBBQ? 広大な敷地で肉を食らう

長時間の川下りでヘトヘトになったノーパンの記者を乗せたクルマが向かった次の目的地は、手ぶらBBQも楽しめる木曽川沿いのキャンプ場『IGIYAMA FOREST』。ホテルの朝食ビュッフェがおいしくて、結構な量を平らげていたはずなのに、川下りで疲れたカラダは新たなエネルギーを求めているようだ。とにかく肉が食いたい。

県庁の職員さんに聞いたところによると、岐阜県民は週末にBBQするのが当たり前の日常らしく、IGIYAMA FORESTの広大なBBQコーナーは空席がないほどに多くの人たちで賑わっていた。

慣れた手つきで火を起こし、次々と肉や野菜を焼き上げる県庁の職員さんたち。さすがにこちらばかり焼いてもらうのは申し訳なく、「焼くのを代わるから食べてください」と伝えるも、「いえ、私たちは毎週BBQやっているので」と丁重に断られた。「いやいや、毎週BBQなんてやるはずないでしょ」と思ったが、どうやらそれは本当らしく、ほとんどの家の庭にはBBQセットが用意されていて、いつでもやろうと思えばできるらしい。東京23区の庭のない家に住む記者にとっては実にうらやましい話だ。

IGIYAMA FOREST
住所/岐阜県各務原市鵜沼小伊木町4-265
電話/058-370-0740

前日の15時半に東京駅を出て、IGIYAMA FORESTを出るまでおよそ22時間。ホテルで寝ている時間を除いても、わずか15時間ほどでこれだけの経験ができる木曽川周辺を巡る旅。狭い東京を抜け出して、週末を大自然に囲まれた場所で過ごすには距離的にもちょうどいいかも。暖かい春が来るまでの今のうちに、木曽川旅の用意を始めてみてはいかがだろう。