いもち病菌の酵素「MoChia1」は新しいタイプのキチン分解酵素、新農薬開発に期待

近畿大学、帝京大学、福島大学の研究グループが、イネの重大な病害であるいもち病菌が分泌する酵素「MoChia1」が、これまで知られていなかった新しいタイプのキチン分解酵素であることを発見しました。
概要
近畿大学、帝京大学、福島大学の研究グループは、いもち病菌が分泌する酵素「MoChia1」が、キチンを加水分解する新しいタイプの酵素であることを実験的に証明しました。この発見は、新たな機能を有するキチンオリゴ糖誘導体の合成触媒としての利用や、いもち病菌の感染を抑制する新たな農薬開発につながることが期待されます。発見された酵素:MoChia1
所属大学:近畿大学、帝京大学、福島大学
対象病害:いもち病(イネの重大な病害)
期待される応用:キチンオリゴ糖誘導体の合成触媒、新たな農薬開発
論文掲載:The Journal of Biological Chemistry(2026年4月17日オンライン掲載)
新しいタイプのキチン分解酵素「MoChia1」の発見
イネの重要な病害であるいもち病菌(Magnaporthe oryzae)が分泌する酵素「MoChia1」について、近畿大学、帝京大学、福島大学の研究グループによる研究が進められました。これまで、糖鎖であるキチンを加水分解する酵素キチナーゼには4つのタイプが存在することが知られていましたが、「MoChia1」はそれらとは異なる様式でキチンを分解する新しいタイプの酵素であることが実験により明らかになりました。このような分解様式を持つ酵素は非常に珍しく、現在、国際生化学・分子生物学連合(IUBMB)に新規酵素として登録申請中です。「MoChia1」の応用可能性
「MoChia1」は、他にはない独自の活性を示すことから、新たな機能を持つキチンオリゴ糖誘導体を合成するための触媒としての利用が見込まれています。さらに、この酵素はキチナーゼ阻害剤であるアロサミジンによって阻害されることが確認されており、この性質を利用していもち病菌の感染を抑制する新しい農薬の開発につながる可能性が期待されています。研究の背景といもち病
イネは世界の人口の半分以上を養う主要な食料作物ですが、いもち病菌によるいもち病は、多くの稲作国で年間10~30%の収量損失をもたらしています。イネはいもち病菌の感染に対し、細胞壁の主成分であるキチンを酵素で分解・溶菌することで抵抗性を示します。また、分解によって生じるキチンオリゴ糖をエリシターとして認識し、免疫応答を誘導することで防御を強化します。一方、いもち病菌は「MoChia1」を分泌し、自らの細胞壁由来のキチンオリゴ糖を捕捉することで、イネの免疫応答を回避していると考えられていました。しかし、「MoChia1」の酵素としての詳細な性質は不明なままでした。「MoChia1」の分解メカニズムの解明
本研究グループは、「MoChia1」の分解様式を明らかにするために、キチンオリゴ糖などを基質として分解実験を行いました。その結果、「MoChia1」が基質であるキチンオリゴ糖の最も還元末端側にあるグリコシド結合を加水分解し、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を遊離することが証明されました。これは、これまで知られていたエンド型、エキソ型(非還元末端側)、プロセッシブ型といったキチナーゼの分解様式とは異なるため、「MoChia1」は新規酵素である「還元末端GlcNAc遊離キチンオリゴ糖加水分解酵素」であると結論づけられました。この発見により、「MoChia1」はエリシターを捕捉するだけでなく、分解することで植物の免疫を回避している可能性が示唆されました。まとめ
「MoChia1」は、いもち病菌が分泌する新しいタイプのキチン分解酵素であり、そのユニークな分解様式は、新たな機能性オリゴ糖合成や、いもち病に対する新規農薬開発への応用が期待されます。関連リンク
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(26)00334-0/fulltexthttps://www.kindai.ac.jp/meikan/897-oonuma-takayuki.html
https://www.kindai.ac.jp/meikan/812-takeda-tooru.html
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

